── 早くから「不就学ゼロ」を目指してきた可児市では、20年を経てどのような変化がありましたか?
小島: 20年前に様々な支援を受けた子どもたちが、今や30代の大人になっています。彼ら彼女らはその地域で就職して家を買い、市民税を納め、ファミリーで地域でのボランティア活動に参加するなど、地域社会を支える確かな担い手へと育ちました。中には起業し、その収益の一部を、かつて自分たちを支援してくれたNPOに寄付している人もいます。
国籍を聞けば海外の国名を挙げますが、「自分の『ジモト』はここだ」と胸を張って語ってくれます。少子高齢化が進む地方都市において、当時の不就学対策という「投資」が、20年の時を経て地域を支える「確かな還元」となって戻ってきているのです。
── このまま不就学の問題を日本が放置した場合、どのような懸念がありますか?
小島: 子どもたちの教育機会を放置し続けることは、日本という国の国際的な競争力や持続可能性そのものを揺るがします。
国が高度人材の受け入れ拡大をめざした際、大使館等から突きつけられたのは「日本には外国籍の子どもに対する就学義務がなく、教育環境への不安があるため、家族を伴って日本に移住する魅力が十分ではない」という厳しい指摘でした。働きやすい環境だけでなく、子どもたちの学びの機会など、家族にとって魅力的な環境をつくっていかなければ、日本が世界から「選ばれない国」になってしまいます。
外国籍の子どもたちに関心を寄せてくれる企業の動きもあります。シチズン時計は、ものづくりの楽しさを伝えるためのキャリア育成のプロジェクトを継続的に実施しています。直接関わりをつくっていただき、子どもたちのことをもっと知ってほしいです。
問いの先にある「新しい社会」に向けて
可児市の20年にわたる挑戦がそのヒントを示しています。制度の狭間に取り残された子どもたちへの支援は、コストではなく投資ではないでしょうか。教育機会を得た子どもたちは地域の担い手となり、次の世代への支援者にもなっています。
不就学対策とは、社会の持続可能性そのものへの投資です。1万5000人という数字を「見えない問題」のままにしておくコストは、私たちが思う以上に大きい。でも、実は未来を開く鍵もここにあるはずです。

小島 祥美(こじま・よしみ)◎ 東京外国語大学教授、多言語多文化共生センター長。人間科学博士(大阪大学大学院)、専門は教育社会学(多文化共生、ボランティア)。小学校教員、NGO職員、地方自治体職員、愛知淑徳大学教授を経て、2020年9月東京外国語大学着任、2021年4月多言語多文化共生センター長就任。


