大人になる過程でほとんどの人はいつの間にか「初心者」ではなくなる。仕事では一定の能力が身につき、長く続けている趣味はたいていはもともとそこそこ得意だったものだ。これは理にかなった生き方であり、私たちが週の大半をすでに上手にできることに費やしているのはこのためだ。
頭脳をもっと明晰にしたいと思ったとき、人は従来と同じ枠組みにすんなりと収まるものを選びがちだ。それが何であれ、たいていは1人で座ったまま行え、しかもうまく続けられる程度の難易度のものだ。
問題は、この種の訓練によって身につくのはほとんどの場合、その特定の課題におけるスキルだということだ。心理学者はこの隔たりを遠転移の失敗と表現する。つまり、向上した能力は一般的な思考へと広がることなく、訓練した課題の範囲内に留まりがちだ。
一方、広がりを持つと思われるものはそれほど整然としていない。それは、意図的に自分の能力を超え、自分ではコントロールできない状況に頻繁に身を置くことで、失敗から立ち直ることが当たり前になるほど繰り返し取り組む必要がある。そこで浮かび上がってくるのが、頭脳のトレーニングとしてはほとんど誰も思いつかない趣味、つまりペアダンスを習うことだ。
ペアダンスが見た目よりはるかに難しい理由
ダンスといっても、やってみる価値があるのは特定のものに限られる。サルサやスウィング、タンゴといった、リードする人とフォローする人が組んで踊るソーシャルダンスだ。ダンス教室や、パートナーが交代する週1回のダンスイベントで習う。キッチンで1人で踊るようなケースはこれに含まれない。全員が同じ壁の方向を向いて振り付け通りに動くフィットネスクラスも同様だ。
身体的な負荷については簡単に説明できる。数曲踊れば心拍数は上がる。そして有酸素運動は年齢を重ねつつ認知機能を維持するためにできることの中で最も効果的と認められたものの1つだ。
身体への負荷以上のものの方がさらに興味深い。ステップは一連の動きとして覚えて意識しなくてもできるようになるまで繰り返さなければならない。それができるようになるまでは、足が一つ前の動きを終えようとしている間にもワーキングメモリーは次の動きを考えている。音楽が決めるテンポは自分の都合で変えることができない。さらに、パートナーが次にどう動くかは体重移動や身体の緊張のわずかな変化からしか読み取れないため、曲の大半を通じて相手の次の動きを予測し、その予測が外れればその都度修正しながら踊ることになる。
普通の大人が平日の夜にできることで、これらすべてを同時に要求されるものは他にほとんどない。
誰かと踊る必要がある理由
ソフトウェアはユーザーに合わせてくれる。目の前にいる人間はそうではない。一晩に6人、8人とダンス相手を変えれば、身長も、タイミングも、スキルのレベルも異なる相手に合わせてパターンを一から組み立て直さなければならない。
こうした変化は都合の悪い要素ではなく重要なポイントであるようだ。刺激の充実やスキル習得に関する研究では、脳が未知の情報を処理する方法に持続的な変化をもたらす要因として新奇性と複雑性が繰り返し挙げられている。反復は狭い範囲の専門性を育てる。変化は柔軟性を育む。



