サイエンス

2026.08.22 14:34

D-Waveの量子コンピューティング戦略、エラー訂正の効率を10倍に高める新設計

stock.adobe.com

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量子コンピューティングにおける最も困難な課題は、より多くの量子ビット(qubit)を作ることではない。手元にある量子ビットの誤りを防げるかという点だ。査読付き学術誌「Nature」に掲載された新しい論文は、D-Waveのデュアルレール量子ビットが、互いにクリーンに量子もつれ(エンタングルメント)を形成できるようになったことを示している。これは、量子エラー訂正を効率的に解決するために欠けていた重要なパズルのピースだった。D-Waveによると、この新しい量子ビット設計により、各ステップにおける論理エラー率を10分の1に低減でき、2032年までに商業的に有用な100論理量子ビットのシステムを実現する道が開かれるという。

ただし、課題は残る。これがスケールするかどうかを、まだ見極める必要がある。

量子コンピューティングに少しでも興味がある人なら誰もが知っているように、量子ビットは極めてデリケートだ。浮遊光子、わずかな熱、かすかな電磁ノイズによって、現在想像し得る最も強力なコンピューティング・プラットフォームの構築を約束する、その脆弱な量子状態は崩壊してしまう。これに対する業界の答えが、量子エラー訂正だ。何百、あるいは何千もの物理量子ビットを束ねて、自らエラーを検出して修正できる、より信頼性の高い単一の「論理」量子ビットを作る。これは原理的には機能するが、厄介な問題はそのオーバーヘッドだ。設計にもよるが、実際に信頼できる1つの論理量子ビットを構築するために、1000個の物理量子ビットが必要になる場合もある。このことが、商業的に有用な量子コンピューターの構築を極めて困難にしている。

量子アニーラで最もよく知られるカナダと米国の企業D-Waveは、近道を見つけたと考えている。そして、今週、査読付き学術誌「Nature」に掲載された新しい論文は、その賭けが実を結ぶかもしれないという最初の確固たる証拠を示している。

新たな仕掛け:エラーを検出しやすくする

D-Waveのゲート方式マシンは、「デュアルレール・イレイジャー(消失)量子ビット」と呼ばれるものを使用している。この設計は、業界の大部分が採用している、絶対零度近くまで冷却された微小な超伝導電気回路である「トランスモン量子ビット」の共同発明者でもある、イェール大学の物理学者ロブ・ショエルコフが主に生み出したものだ。

D-Waveは1月に完了した5億5000万ドル(約873億円)の取引で、ショエルコフのスタートアップ企業Quantum Circuitsを買収した。この買収が、同社が進めるゲート方式コンピューティングへの注力の基盤となっている。

デュアルレール量子ビットのアイデアはこうだ。

基本的には、共有されるちょうど1つの光子を使って、2つの超伝導マイクロ波空洞に1ビットの量子情報をエンコードする。その光子が漏れ出た場合(最も一般的な障害モード)、量子ビットは空の状態になり、単にそれを検出してフラグを立てることができる。従来のトランスモン量子ビットでは、空の状態としては現れない。ビットが「1」から「0」に反転(ビット反転)し、誤ったまま計算が継続されてしまう。デュアルレール量子ビットの利点は、修正が困難な量子コンピューティングの典型的なエラーを、既知で、場所が特定され、理解された問題に変換できることだ。これは損失を「消失」に変換することであり、消失はサイレントエラーよりもはるかに低コストで訂正できる。

D-Waveが報告している数値

その性能は、正真正銘の素晴らしいものだ。

ゲートは約500ナノ秒で動作し、光子の漏れ(結果として消失が発生する)は約0.5%の割合で起こる。検出がより困難な微細な位相エラーの発生率は約0.1%だ。そして、最も厄介なエラーであるビット反転は、100万回に1回程度の割合に抑えられている。この最後の数値こそが最大のハイライトであり、論文ではビット反転が「実質的に存在しない」と記されている。

2量子ビット全体の忠実度(フィデリティ)は99.9%近くに達しており、著者らは「超伝導量子ビットで報告されている中で最高水準」であると述べている。

また重要なのは、量子ビットにとって望ましい「エラー階層」──検出しやすいエラーが困難なエラーよりもはるかに多く発生するという特性──が、もつれゲートを通過した後も維持されることを論文が示している点だ。

これは極めて重大なことであり、すでに実用化されている。

「今回の研究で実証されたもつれゲートは、すでに当社のゲート方式システムに統合されており、同等の性能を発揮している」と、D-Waveのチーフサイエンティストであるロブ・ショエルコフは述べている。

ただし、いくつかの注意点もある(当然ながら)

これは真のマイルストーンのように見えるが、いくつかの注意点がある。

D-Waveが実証したのは、2つの物理量子ビット間における高品質なゲートだ。しかし、これは動作する論理量子ビットでも、完全なエラー訂正サイクルでもなく、スケールアップされた運用でもない。D-Waveの発表における最大の目玉は、この設計が「エラー訂正の段階が上がるごとに、論理エラー率を最大10分の1に低減できる」ということだ。D-Waveはこれを「ラムダ(λ)=10」と呼んでおり、素晴らしい成果ではあるが、これは現在実証されている技術のスケールシミュレーションから導き出されたものである。

D-Waveの最高開発責任者(CDO)であるトレバー・ランティングにこの点について尋ねると、彼は率直に答えた。

「Natureの論文で実証された現在のゲート性能を活用すると、シミュレーションはラムダ=10を示している。実験的にラムダを決定することは、障害耐性(フォールトトレランス)に向けたD-Waveのロードマップの一部だ」と同氏は語った。

さらに、主要なデータとして示されている忠実度は「事後選択(ポストセレクション)」されたものだ。研究者らは、エラーフラグが立てられた試行を破棄し、残りの忠実度を報告している。これは消失量子ビットを扱う上では標準的な手法だが、完成されたエラー訂正コンピューターの動作とは異なる可能性がある。このアーキテクチャの要点は、最終的には、フラグが立てられたエラーをただ破棄するのではなく、訂正することにあるからだ。

ランティングは、それこそがまさに次の実証実験だと語る。

「短期的には、17個のデュアルレール量子ビットを用いて、完全な繰り返しエラー訂正サイクルを伴う距離3の表面コード(surface code)を実証する予定だ。消失が訂正されるため、事後選択は行わない」と同氏は述べた。また、論文の補足データでは、8量子ビットのチップにおけるさらに7つの量子ビットペアでもこの結果が再現されていることに言及し、このゲートが一度限りのまぐれではないことを示している。

この控えている17量子ビットの実証実験こそが、真のスケールテストとなる。

物理学の背後にあるビジネス

こうした動きは孤立して起きているわけではなく、D-Waveだけが取り組んでいるわけでもない。

エラー訂正のコストを抑えることは、この分野で最もホットなアイデアの1つだ。アマゾンやパリを拠点とするスタートアップ企業Alice & Bobは、「キャット」量子ビットを用いて関連するコンセプトを追及しており、複数のグループが中性原子を用いた消失量子ビットの研究を進めている。D-Waveの際立った特徴は、アニーリング方式とゲート方式という2つのアプローチを同時に進めていることであり、その両方を手がける唯一の企業であることだ。

これらはすべて、D-Waveが第2四半期決算を発表したタイミングと重なる。

D-Waveはスタートアップ規模の収益基盤に対し、依然として積極的な支出を続けている。四半期売上高は310万ドル(約4億9200万円)と横ばいだったが、上半期の受注額(bookings)は前年同期比1120%増の3550万ドル(約56億4000万円)と大幅に急増した(フロリダ・アトランティック大学への2000万ドル(約31億8000万円)のシステム売却が貢献している)。また、同社の契約済み案件のバックログ(未消化分)は668%増の4070万ドル(約64億6000万円)に達した。同社の当四半期の純損失は4800万ドル(約76億2000万円)で、上半期の営業費用は2倍以上に膨らんだ。これは、Quantum Circuits買収に伴う統合費用や、ニューヘイブンに新設されたゲート方式研究センターの人員増強によるものとみられる。

製品ロードマップは長期に及ぶ。D-Waveは、2027年に49量子ビットのシステム、2028年に181量子ビット、2030年に10論理量子ビットのマシン、そして2032年に100論理量子ビットのシステムを計画している。このマシンは、100万回以上の演算を実行でき、大規模な量子化学やAIの課題に取り組むことができるとD-Waveは述べている。

とはいえ、千里の道も一歩からである。次の大きな一歩は、自らの誤りを訂正する17量子ビットチップの試験だ。

forbes.com 原文

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