アルパネット(Arpanet)からワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の誕生に至るまで、過去のテクノロジーイノベーションの波を取材していたとき、インタビューの相手が自分のビジョンに家族や仕事仲間以外の人間がどう影響を与えたかを語ることは滅多になかった。私の父が1979年から1981年にかけて国防総省でアルパネットの運営に携わっていた当時、オンラインコミュニケーションは職場に置いてくるべき話題だった。マーク・アンドリーセンとともにWWWの構築、そしてその後のネットスケープの立ち上げに取り組んだ初期の同僚たちの大半は、家族や仕事以外のつながりを持つには若すぎた。長年の取材経験に基づけば、新しいテクノロジーの創造に向けた創業者の意思決定やフィードバックは、主に白人で男性中心の同僚たちの間だけで巡っていたと言っていいだろう。
しかし、今回のテクノロジーイノベーションのサイクルにおいてAIと起業家精神を取材するなかで、私が見出したのは、そうした近視眼的な状況が変化したということだ。確かに、多くのAIスタートアップは、大切な人と過ごしケアする時間を持つ人々を排除しがちな「9-9-6」(午前9時から午後9時まで週6日働く)の労働文化を取り入れている。それでも、この爆発的な技術変革の時代において、より多くの創業者や投資家が、自身が作り、投資するテクノロジーに大切な人たちからのフィードバックを反映させているのだ。
彼らは、私が以前に報じたような、家族などこれまで無視されてきた層向けにテクノロジーを開発しているだけではない。子どもたちがAI搭載の玩具でどう遊ぶかを観察し、耳を傾け、高校時代の恩師に学校におけるテクノロジーへの意見を求めたりもしている。これまでの技術革新のサイクルで置き去りにされてきた社会のより広範な層の声が、今回は届いているように感じられる。これは、人員削減の打撃を受け、新たな生き道を模索している数千人のテクノロジー労働者(最新の雇用統計が指摘している)にとっても、チャンスを広げることになるかもしれない。
「それは、私たちのあらゆる活動の指針となっています」と、ボードゲーム、ビデオゲーム、およびAI技術を融合させた「Board」の創設者であるブリン・ジネット・パットナムは指摘する。パットナムのビジネスは、3歳から22歳までの実子2人と継子3人を持つ母親としての役割からインスピレーションを得たものだ。彼女は家族全員が一緒に遊べる方法を探しており、それが実を結んだ。パットナムはBoardのために3500万ドル(約55億5000万円)を調達している。
家族がテクノロジーを形作っている背景には、テクノロジーが極めて身近なものになったこと、そして在宅勤務がこれほど普及したことも一部関係している。私の父が、実質的にインターネットの前身となったアルパネットの将来的な方向性を決定し始めたとき、彼はペンタゴンの厳重に警備されたオフィスで働いていた。父が1981年に軍を退き、後にインターネットとなるものの潜在的な害について執筆し始めたとき、母も、小学生だった私も、生まれたばかりの弟も、インターネットが何であるかなど全く知らなかった。現在では、親が子どもとスクリーンタイム(画面を見る時間)を巡って争うなかで、誰もがテクノロジーが生活に与える影響について語り合っている。
実験台
しかし現在、創業者や投資家は、外部の世界からのフィードバックに真の価値を見出している。アーリーステージを対象とするベンチャーキャピタル、パトロン・ファンド(Patron Fund)の共同創業者であるブライアン・チョーは、自身が「画面依存症」であることを認めている。しかし、AI製品への投資判断を下す際に「実験台」にしている5歳と9歳の娘たちは、テクノロジーの使い方において、自分よりもはるかに戦略的であることに気づいた。娘たちは絵を描くとき、チャットボットを使ってどうすればもっと上手く描けるかを尋ねる。チョーによれば、彼の娘たちは、AI技術を搭載した玩具の精巧さを見極めることに関して非常に賢いという。
「正直に言って、彼女たちは私たちにとって素晴らしいフィルターになっています。子どもたちは、何が本物で何がそうでないかを見極めることができるからです」とチョーは言う。「最初の1週間ほどは非常に熱中するかもしれません。しかし、1週間使った後はもう戻ってこない。その離脱ぶりは本当に、本当に、本当に厳しいのです」
チョーの共同創業者であるジェイソン・イェーも、自身の仕事は、8歳と10歳の娘たちがより洗練されたナラティブ(ストーリー性)を持つ玩具をどれほど切望しているかによって影響を受けていると付け加えた。娘たちは、それを提供できないAI製品には、あまり忍耐強く付き合ってくれない。
「最近の子どもたちは、質の高いコンテンツに対する非常に強いフィルターを持っています。多くのAI生成コンテンツは比較的浅薄で、それほど高品質ではないと私は考えています」とイェーは語る。「単に量が多いだけなのです」
パットナムは、自身の子どもたちが同社の開発する次の製品のインスピレーション源になったと付け加えた。
「第4四半期に発売予定の現在開発中の製品は、デバイス上で実際に自分だけのゲームや駒を作成できる機能です」と彼女は語る。「これは、私自身の子どもたちとの経験から非常に強く動かされたものです。家族みんなで一緒に遊べるようにと、このデバイスを開発しました」
家族だけではない
AIスタートアップへの影響力として、子どもの声に頼っているのは親だけではない。ソハン・チョードリーとパク・ジンソは、多くの元高校教師から、生徒の教育を支援するためにAIをどのように活用したいかという話を聞いた後、AIを活用した教育プログラム「Flint」を共同で立ち上げた。しかし、学区はそれを許可していなかった。
「教師たちは、学区から禁止されているため、テザリングをしてChatGPTを使っている様子を語っていました」とチョードリーは言う。「ここで何かできることがあると実感したのです。ChatGPTやAnthropicなど、急成長しているAI企業のどれも、教育におけるAIのあり方を本当に解決するとは思えませんでした」
これまでに、この創業3年のスタートアップは、教師たちから得たフィードバックを基に1670万ドル(約26億5000万円)を調達した。彼らは自らの成功について、実際の学校を訪問し、カンファレンスに出席し、製品の改良方法について教師から具体的なアドバイスを得たことによるところが大きいと考えている。チョードリーによれば、教育者たちがテクノロジーの世界に初めて自分たちの声が届いていると感じられたことも、成功の一因だという。
「平均的な学校の管理者や教師に話を聞くと、彼らは開発されるテクノロジーの蚊帳の外に置かれていることに対して、非常に多くの不満を抱いています」とチョードリーは語る。「シリコンバレーに行き、彼らの教育に対する見方を見てみると、教育は『恐竜』(時代遅れのもの)だと考えられています。学校制度や教育者、保護者は単にテクノロジーに反対しているだけだと思われているのです。しかし、実際はそうではありません。彼らが反対しているのは、10年間も対話を行わずに、彼らの意見を取り入れずに構築されたテクノロジーがもたらす、深刻化する悪影響に対してなのです」



