コンサルティング企業マッキンゼーによると、2011年の商品価格のピーク時以降、原料炭は70%超、一般炭は65%超、銅と金はそれぞれ30%以上下落。関連株も価格と同様に変動しており、鉱業分野は強い圧力の下にある。
さらに、先ごろ世界の鉱業大手に関する報告書、「Making the grade: are some miners chasing fool’s gold? (目標達成に向けて:鉱山会社が追い求める金は本物か?)」を公開した国際NPOのCDPによれば、時価総額がおよそ3,290億ドル(約40兆円)に上る鉱業大手の上場企業11社は、各社の利益総額の15%に相当する100億ドル(約1.2兆円)を失う危機に直面しているという。
CDPは、運用資産95兆ドル以上を保有する822の機関投資家を代表し、企業の温室ガス排出量や気候変動などへの取り組みに関する情報を収集・評価する機関。そのCDPが今回の報告書で評価基準とした項目には、以下が含まれている。
・排出量の削減に向け、有効な目標を設定しているか
・水ストレスに関する評価を実施しているか
・11月30日からパリで開催される気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で合意が予想される排出規制強化への準備が整っているか
皮肉なことに、最も高い評価を得たのはブラジル史上最悪の規模となる鉱山事故が起きたばかりの同国資源大手ヴァーレ。2位はBHPビリトン(英豪)だった。ダムが決壊した鉱山を運営するサマルコは、ヴァーレとBHPビリトンの合弁会社だ。
3位は住友金属鉱山で、 4位以下は順に、リオ・ティント(英豪)、テック(カナダ)、アントファガスタ(英)、アングロ・アメリカン(英)、フリーポート・マクモラン(米)、ベダンタ・リソーシズ(英)、ファースト・クァンタム・ミネラルズ(カナダ)、グレンコア(スイス)だった。これら各社の排出量は、世界の鉱山業界全体の排出量の約85%を占めている。
報告書は主に、次の点を指摘している。
・新たな環境規制の導入には、11社中9社が反対している。
・炭素価格を1トン当たり50ドルとして算出すると、11社の利益総額のうち約100億ドルが喪失の危機にさらされている。
・関連施設の半数以上が、水ストレスが中程度以上の地域に所在。
さらに、懸念事項として以下の点を挙げた。
・ロビー活動:規制反対派が活発なロビー活動を展開している。排出規制には、2社 (アントファガスタとヴァーレ) が一定の程度まで支持しているに過ぎない。
・石炭取引量:11社のうち半数以上が、石炭生産に関与している。輸出市場においては、これら11社の取引量が原料炭で40%、一般炭で27%を占めている。
・排出量の削減目標の設定:その他の業種に比べ、削減目標の設定が進んでいない。有効な目標を定めているのは11社中6社のみ。排出する二酸化炭素の絶対量と濃度の双方に関する明確な数値目標を定めている企業はゼロだった。
報告書によれば、全体的な取り組みが最も遅れているのはグレンコアだ。同社は企業活動による炭素排出に価格を付ける炭素税、排出量取引などの「石炭価格付け(カーボン・プライシング)」を否定。さらに、排出規制などによって採掘が中止され、投資資金が回収不能となる「座礁資産」を基準として採用することにも反対している。
CDP関係者は、「今回の調査結果は、投資家らのための”炭鉱のカナリア”だ。世界的大手が、低炭素経済への移行に向けた準備ができていないことが明らかになった」と説明している。