相手が敵対的だった場合、国際法も軍事の常識も通用しない
ここから先は、楽観をいったん脇へ置き、リスク管理へ切り替えなければならない場面だ。攻撃的な遭遇は、予見が難しく被害が甚大なブラックスワンと呼ぶべき事象になりうる。人類の文明は、人間という当事者を中心に回っている。国際法、軍の作戦思想、情報機関の仕組み、外交、災害や危機への対応体制、サイバーセキュリティーの枠組み、経済制度は、いずれも登場する当事者が人間であることを前提にしている。
地球外の知性が現れた瞬間、当事者が人間だという前提の多くは消え去る。しかも敵意の現れ方は、ハリウッド映画に描かれる異星人の侵略とは限らない。最大の脅威は、人類と相手の技術力が釣り合わないことだろう。人類より数千年、あるいは数百万年進んだ文明は、都市を攻撃するような手段を選ばないかもしれない。地球にたどり着くことすらないまま、通信、人工衛星、航法、エネルギー網、輸送、金融基盤を破壊できる可能性がある。
攻撃を受ける前から、偽の映像と情報が社会を混乱させる
物理的な攻撃よりも切迫しうるもう1つのリスクが、情報の混乱である。人々のもとには、写真、映像、交信記録とされるもの、捏造された証拠が押し寄せる。AIとディープフェイクの技術が、偽情報の氾濫を桁違いに悪化させる。
地球外の存在と接触したという主張が出れば、数分のうちに何百万本もの偽造動画がネット上に並ぶかもしれない。娯楽として作られたものもあるだろう。誤情報もあるだろう。敵対する国家、犯罪組織、政治運動が意図的に作ったものも交じる。
本物の証拠と偽造された映像を見分けることは、人々にとって難しくなる。こうした事態が想定されるからこそ、真正性を確かめる技術、信頼できる通信、透明性のある科学的手続きが決定的に重要になる。人類に必要なのは、「何が本物なのか」という根本的な問いに答えられる情報の仕組みである。
地球外の知性を公表することは、地政学上の出来事でもある。米国が、あるいは別の国が、信頼に足る接触を最初に果たしたなら、その影響は国際政治に即座に及ぶ。地球外の技術は誰が所有するのか。地球外の文明と話す権利は誰にあるのか。データは誰が管理するのか。接触で得た情報は機密にすべきか。同盟国と共有すべきか。市民に公開すべきか。こうした問いに、広く受け入れられた答えはない。誰が何をどこまで決めるのかを定める統治の仕組みが必要になる。
地球外の知性に誰が対応するか、国際的な枠組みが必要
地球外の知性を示す本物の証拠が見つかったとき、対応を政府1つ、軍事組織1つ、企業1社に委ねてはならない。科学界には果たすべき役割がある。各国政府にも役割がある。国際機関にも、そして一般の市民にも役割がある。
科学的な検証、相手との意思疎通、生物由来の危険を封じ込める措置、サイバーセキュリティー、技術の管理、情報機関による評価、経済活動の継続、市民への説明について、それぞれ手順を用意しなければならない。そして何より、国際的な協調が要る。
最も重要な備えは、打撃を受けても立ち直る回復力である。地球外の文明が何をするかは予見できない。予見できない事態に社会が耐えられるよう、社会を支える仕組みを強くしておくことはできる。技術が進み、危険が複雑さを増す世界で、あらゆる混乱を未然に防げると考えることはできない。衝撃を受け止め、適応し、立ち直る力が要る。次の大きな混乱を引き起こすのがAIでも、感染症の世界的な流行でも、サイバー攻撃でも、地政学上の破局でも、人類が理解できない何かでも、衝撃を受け止めて立ち直るという備え方は変わらない。


