米国時間2026年8月12日に出された新たな大統領覚書によって、連邦政府は、審査を通過した民間企業へ法執行の権限を一部委ねられるようになった。企業が引き受けるのは、サイバー空間を舞台に国境をまたいで動く犯罪組織を狙った取り締まり作戦への支援である。年に数十億ドル(数千億円規模)をアメリカ人から奪い続けるサイバー犯罪という災厄に対して、覚書は独創的な答えを示している。だが同時に、これまでどの企業も背負うよう求められたことがなく、どの裁判所も判断を示したことのない法的リスクを生み出してもいる。
被害は年3.3兆円、法律が民間企業の反撃を縛ってきた
覚書に添えられたホワイトハウスのファクトシートによると、2025年にアメリカの消費者が申告した被害額は、インターネットを悪用した犯罪だけで208億ドル(約3兆3072億円)を超えた。手口はランサムウェア、フィッシング詐欺、金融詐欺、性的な画像をたてに金銭を求めるセクストーション、オンライン上のなりすましと幅広い。アメリカでは成人の73%が、ネット上の詐欺や攻撃に遭った経験があると答えている。狙われやすいのは高齢者、子ども、低所得世帯である。
1986年のコンピューター詐欺・不正利用防止法が壁になる
こうした詐欺や攻撃の背後にいるのが、サイバー空間を使って国境をまたぐ犯罪組織(CE-TCO)だ。CE-TCOの多くは国外を拠点としており、アメリカの法執行機関では追いつく速さが足りない。技術力の面では民間企業のほうが速く動けるが、企業が攻撃者のシステムへ手を出すことは、法律で原則として禁じられている。
1986年に成立したコンピューター詐欺・不正利用防止法(CFAA)は、「権限なく」コンピューターへアクセスする行為と、損害を生じさせると知りながらそのためのコードを送り込む行為を、犯罪と定めた。この法律を起草した人々に、現在のサイバー犯罪と戦う上での難題を見通すことはできなかった。



