7月から第2シーズンが始まったTBS系日曜劇場『VIVANT』。前作に続いて注目を集めるこのドラマでは、映像制作にAIを活用したことも話題となった。その挑戦の狙いと得られた果実、そしてドラマづくりの今後について、『VIVANT』プロデューサーの飯田和孝とTBSのAI活用を牽引するイノベーション推進部の宮﨑慶太が、アクセンチュア ソングのマネジング・ディレクター、槇 隆広と語り合った。
槇 隆広(写真左。以下、槇) エンタメ・コンテンツ産業においては、「制作でのAI活用は品質に懸念があり、AIが職人的な技能を持つ人の代替はできない」という意見が根強く、AI導入に慎重な姿勢が多く見られます。一方、TBSはAIを柔軟な考え方でとらえ、先進的な取り組みをされてきています。今回は、『VIVANT』第2シーズンでどのようにAIを活用したかについて、実体験に基づいてお聞かせください。
飯田和孝(写真右。以下、飯田) AIを使ってすべてをこなすのではなく、ゴール地点を決めて、そこにたどり着くための隙間を埋めていく作業をAIが担う、という感覚です。たとえば撮影した実写映像を画面上で馴染ませていくときに、従来はCGで時間をかけてやっていたところを、AIに打ち込んでいき、どんどん出力していく。その中からどれが本編の品質に耐えられるかを判断するところは、これまでの映像制作の経験がものを言うんですが、出てきた結果について、「違う」「違う」「出てきた」という具合に何度も調整をかけていくんです。
つまり、現状、制作側としては、いま到達している品質と同じものを、AIを使っていかに効率化してつくり出せるか、という感じです。ただ、技術的な視点からすると、これまでCGだけではたどり着けなかった表現の先まで行けている部分もあると思います。
宮﨑慶太(写真真ん中。以下、宮﨑) 僕自身は、会社全体のAI活用を推進するリーダーとして、現場とは違った形で作品に関わっています。僕の立場で感じていることは、AIにはやはり「ガチャ要素」がすごくあるということ。手を動かす人間からすると、いきなりいいものがポンと出る、というようなことでは全然ないんです。
従来のVFXの知見や技術を駆使しつつ、試行錯誤しながらいいところを取り出していく、というイメージです。実際、シーズン2の初回では爆発シーン(写真参照)でAI(Google Cloud社のVeo3、Nanobanana)を使いましたが、AIをかませれば完成形がすぐ出てくるというわけでは決してなく、長年培ってきたVFXのスキルとの合わせ技でつくり上げた映像です。AIを使用した映像は、ドラマ全体ではなく、作品の一部にとどめています。
次なるAI活用はSFに期待
槇 AIを現場に導入したことで、一番良かったと思える点はなんでしょうか。スタッフの働き方や、制作プロセスにおける意思決定の速度、あるいはコストの最適化において、どのような具体的な変化や手応えがありましたか?
飯田 これは映像表現に直接関係することではないのですが、AIを使うことで、映像イメージを共有するスピードは圧倒的に上がってきています。
映像をつくる前のプリプロダクションで、これまで現場では文字コンテや口頭で指示をしていました。AIを使えばあっという間に絵や画像を作成でき、ごく簡単にイメージを共有できて、スタッフ間のやり取りが格段に楽になりました。
映画や資金力のある大手配信ドラマと違って、テレビドラマは制作期間が短い分、プリプロダクションに時間をかけられないという弱点があります。それをカバーする役割を果たしていると思います。AI活用についてはまだまだ第一章ですが、テレビドラマ制作工程のクオリティが上がっているのは間違いないと感じます。
槇 現状ではAI導入の効果は、制作工程の効率化にとどまっているということですが、この先、AIによって表現の領域はどこまで広げられるとお考えでしょうか。
飯田 ここ2、3年は、まだどうしてもAIを使った映像表現の派手さや映像品質そのものの向上に注目が集まると思います。でもそれは技術的な進化でしかない。本質的な変化は、そうやってベースができた後の勝負かなと思っています。
たとえば私が将来的に挑戦したいのは、従来のCGだけではコストや手間の面で実現が難しかった、Apple TVの「SILO」のようなSF的な世界観。AIとの組み合わせによって、近未来的な空間や独創的な映像を手軽につくれるようになれば、その映像の世界観を起点に物語を考えられる。
また、いろいろなドラマを見たり、自分で制作したりするなかで感じるのは、人間のシンプルな本質を、表現したいとき、必ずしも日常のリアリティが再現されている必要はないということです。あえて現実離れしたフィクショナルな世界の中だからこそ、伝えたいこと、その本質が繊細に研ぎ澄まされていき、観る側もより共感しやすくなるんじゃないかとも思っています。
ガイドラインは「現場で使うためのもの」
槇 TBSは2023年7月に「AI活用プロジェクト」を立ち上げると同時に、「生成AIガイドライン」を策定しました。AI活用をめぐっては多くの企業がルール整備に試行錯誤していますが、ガイドライン策定にあたって、最も重視したポイントは何でしたか。
宮﨑 最初のガイドラインをつくったのは、ChatGPTが出始めた頃でしたから、守り中心のルールになっていました。例えば、「何でもかんでもAIに入れるな」とか「AIを使ったら『使った』というテロップを入れろ」といった感じです。それを2025年に改定したんですが、明確に『VIVANT』で使うためのものでした。
例えば、『VIVANT』の爆破シーンの隅に「このシーンではAIを使っています」というテロップは入れられませんよね。こういった現場のリアルに対応するため、法務部門のメンバーと著作権などについても議論して、「現場で使うためのガイドライン」にしたんです。
僕たちの仕事はクリエイティブを生み出すためにやっているのであって、制限するためのものではない。ただし、ガバナンスはきちんと効かせる。その両立を考えるとき、僕たちは常にすべて「現場がどうすれば動きやすくなるのか」を起点に置いています。
槇 その最初の実践の場として、数ある番組の中で『VIVANT』を選ばれたのは、象徴的な意味もあったのでしょうか。
宮﨑 そうですね。「AI活用に積極的に取り組もう」というのは、ドラマだけではなく、報道、バラエティ、歌、情報制作など部門を問わず、全社的な大きな流れになっています。各方面から注目度が高い「『VIVANT』がやっている」というのは、様々な現場や部門において、みんながAI活用に前向きになる推進力を生んだと思います。
質を追求し、いつかエミー賞を
槇 テレビドラマをIPコンテンツとして見れば、マーケットも競合も変わってきます。AI活用によって制作のあり方も変わりつつある中、お二人の視点として、今後、どこを目指し、また競争相手としてどのようなプレイヤーを意識されていますか。
飯田 僕はまず、日本のテレビ局が作るドラマが全体的にレベルアップしていけば一番いいと思っています。その中でもTBSのドラマには一目置いているというお声をいただくこともありますので、より一層品質を高めていけたらよいと思っています。
そして、他局だけじゃなく、NetflixやAmazon prime、Disney+といった配信プラットフォームが制作しているオリジナルドラマとも互角に戦っていけるレベル、欲を言えば、それらよりも質の高いものをTBSがつくり出す、という未来がくることが現実的な目標ではないでしょうか。
さらに、少し無茶な自分の中の一つの目標として、TBSドラマがエミー賞を獲る、なんてことを、知識も実力もない身分でいつも言っています。それが絵空事ではなく、届くかもしれない現実的な目標になるためには、まずはアジアであり、そして世界へ、と徐々にステップアップして行けたらと考えています。
宮﨑 僕もあまり「どこかと戦う」という感覚はないですね。むしろ、「うちのコンテンツで勝負していく」というか、自分たちにしかできないものを生み出して、質の追求で戦いたいなと思っています。
飯田 以前、韓国のクリエイターの方々から「自分たちの原点は日本のドラマだった」と言う話を聞き、とても印象的でした。韓国ドラマが世界的な評価を得るようになった中で、そう言ってもらえていることへの誇らしい気持ちが芽生えたんです。日本のドラマづくりが培ってきた力の大きさを改めて感じました。しかしそれ以上に、その時代から逆転してしまったことへの悔しさが勝り、停滞していることの原因追求と、改善を日々試行錯誤しています。
日本の他のテレビ局と比べ、TBSは、とにかく「TBSの中でつくる」ことにこだわり続けてきています。だからこそ、TBSには、連続ドラマを面白くつくり続けるノウハウとスキルとテクニックがあって、それらはしっかりと僕の後輩世代へも継承し続けられています。そのしっかりとした伝統の土台に、映像クオリティの向上が加われば、TBSのドラマはもっと評価されるようになると思うんです。
しかし、この良いサイクルを活かしていくには、時間とお金がかかります。僕ら現場の人間は会社に対して、「テレビドラマで稼げる」という未来の可能性を示し続ける必要があると思っていて、実際に動き始めています。
宮﨑 そうですね。そうするためにも、AIは使わざるを得ないと確信しています。これまで外注していたVFXの内製なども可能になりますし、飯田が持っているようなビジョンを実現するためには、AIをめちゃくちゃ使い倒すしかないと思います。
飯田 効率化とともに、撮影期間を今よりも延ばすことができれば、人間的な生活を送りながら撮影に臨むこともできるようになります。家族を大事にしながら、「会社行ってくるね」という感覚で撮影に行けるようになる。そうすれば、つくる人たちのメンタルヘルスは向上し、今以上にクリエイティブを発揮できる。それが作品の質の向上につながって、TBSの価値も上がっていく。昨今減少傾向にあるこの業界に憧れを持ってくれる若い人たちを、もう一度取り戻せるんじゃないかと考えています。
槇 AIを使った効率化と聞くと、経営目線ではどうしても「コスト削減」「人員削減」という発想になりがちです。でもスリム化一辺倒ではなく、効率化で得られた果実を、ドラマのストーリーのリアリティやそこから得られる共感のつくりこみへの再投資に向ける。この好循環を進められれば、TBSのドラマ制作、そしてドラマそのものがより強くなっていきそうですね。



