「ワインは生きている」──時間という魔法
「CDはリリースされれば毎回同じ音を出しますが、ワインは生きています(The wine is alive)」
発表会のステージ上でバロン氏が語ったこの言葉が、ワイン造りの本質を突いていた。樽の中での「緩やかな酸化」だけでなく、瓶のなかでの「緩やかな還元」の時間を経て、ワインはひっそりと成長していく。昨年秋、ナパで瓶詰め直後のワインを試飲した際、ワインは「ボトルショック」を起こし、香りを固く閉ざしていた。バロン氏の初ヴィンテージである1994年のシルヴァー・オークでも同じ現象が起き、「台無しにしてしまった」と絶望したが、1年後には最高のヴィンテージに化けたという。
その経験則のもと、「1年後のリリース時には必ず開花する」と信じて世に送り出した造り手たち。お披露目会の夜、グラスに注がれたワインは見事にそのポテンシャルを開花させていた。張り詰めた緊張感から解放され、「今夜はようやくゆっくり眠れる」と安堵の表情を見せた醸造家たちの姿に、このプロジェクトに懸ける彼らの本気度を見た気がした。

日本の武術を20年以上学び、「常に初心(Beginner's mind)に帰る」ことを信条とするバロン氏。圧倒的なカリスマ性を持ちながらも、プロデューサーとして妥協を許さないHYDE氏。一流の職人たちとの妥協なき「オーケストレーション」━━(組曲化)━━によって生まれた液体は、グラスを空にした後も、胸の奥でいつまでもリフレインする名曲のような余韻を残していた(カリフォルニアシリーズは「ハイドの日」8月10日発売、シャンパーニュシリーズ10月8日)発売開始予定という)。
『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』(水上彩著、ダイヤモンド社刊)



