決済大手のストライプ(Stripe)は米国時間8月19日、投資家に宛てた書簡で、シンギュラリティ(技術的特異点。AIが人間の知能を超え、社会が後戻りできないほど変わるとされる転換点)は2026年1月1日に始まったと述べた。根拠として示したのは、長く続いてきたトレンドが大きく折れ曲がったことであり、その筆頭に挙げたのが新規企業の設立ペースの急上昇である。米国勢調査局が1週間前に公表した統計によると、7月に米国で出された事業設立の申請は57万8926件で、6月から8.1%増えた。ただし、この件数は「会社を作る」という届け出の数にすぎない。同じ7月の申請のうち、実際に従業員を雇う会社として動き出すと調査局が見込む件数は2万9959件で、前月比0.7%増にとどまる。届け出の急増ぶりとは対照的だ。
上期売上高は41%増、AI・暗号資産企業の比率は2倍超
上半期の売上高は前年同期比41%増、フリーキャッシュフローは43%増だった。ストライプによれば、フォーブスが選ぶ「AI 50」の88%が、OpenAIやAnthropicを含めて同社のプラットフォーム上でサービスを構築しており、売上高に占めるAI企業と暗号資産企業の比率は2倍以上になった。書簡には、共同創業者のパトリック・コリソンとジョン・コリソンに加え、技術・事業担当プレジデントのウィリアム・ゲイブリックが署名している。
パトリック・コリソンは2月、ポッドキャスト番組「TBPN」で、2026年第1四半期はシンギュラリティの最初の四半期として記憶される可能性がそれなりにある、と語っていた。そのうえで、あとから振り返ればまったくの妄想に見えるかもしれない、と付け加えている。4月に開かれた自社カンファレンスでも同じ言葉を使い、半分は冗談だと認めた。それが8月には、留保を一切付けないまま正式な投資家向け書簡に登場し、同社が8カ月にわたって経営の前提としてきたものとして語られている。
OpenRouter買収額は約1兆1925億円、創業者に約2385億円
この書簡が出たのは、ストライプがOpenRouterの買収を認めたのと同じ日だった。OpenRouterは、数多くのAIモデルを1つのAPIから使い分けられるようにする中継サービスである。ニューヨーク・タイムズは買収額を75億ドル(約1兆1925億円)と報じた。このモデル振り分けを手がけるスタートアップの企業価値は、5月の時点では13億ドル(約2067億円)だったから、大幅な上乗せになる。アクシオスは買収額を80億ドル超と伝えている。創業者らが手にする額は15億ドル(約2385億円)とされ、3カ月前の会社全体の価値を上回る。シンギュラリティという主張を価格に置き換えればこうなる、ということだ。そしてこの取引は、AIインフラ分野のシード投資家が今後パートナー会議で必ず持ち出す比較対象になる。
非上場のまま買収を重ね、評価額は約25兆2810億円に到達
書簡は、非上場のままでいるからこそ既存株主の持ち分を薄めずに買収資金をまかなえるのだと主張し、大型のM&Aを重ねたにもかかわらず発行済み株式数は3年前より少ないと指摘する。さらに、シリーズD以降の株価の伸びは年率31%で、S&P500の14%を上回ると報告している。2月に実施された従業員向けの株式売却(テンダーオファー)では、ストライプの企業価値は1590億ドル(約25兆2810億円)と評価された。同社はこれとは別に、投資会社アドベント・インターナショナルと組んで530億ドル(約8兆4270億円)でペイパルの買収を目指してもいる。新規株式公開(IPO)は無期限の棚上げが続く。上場しない以上、従業員も投資家も、手元の株式をすぐに現金へ換えることはできない。現在局面が変わったのだと宣言することは、そうした人たちに待ち続けてもらうための、筋の通った理由づけになる。



