経済

2026.08.21 09:22

なぜ水素経済の実現は約束より遅れているのか

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今となっては、それはまるで蜃気楼のようである。ドイツ首相は米大統領とともにホワイトハウスに立ち、水素の価値を絶賛した。欧州最大の経済大国であるドイツにおいて、水素は天然ガスに取って代わるだけでなく、人々の予想よりも早くそれが実現するとショルツ首相は述べた。それは、ドイツの産業を近代化し、輸入天然ガス依存から脱却させるための産業戦略の一部となるはずだった。

2022年2月、オラフ・ショルツ氏とジョー・バイデン氏がメディア向けに語っていたとき、ロシア軍はウクライナ国境沿いに集結しつつあった。差し迫った戦争はエネルギー安全保障の触媒となり、水素は単なる脱炭素化の手段ではなく、エネルギー自立への道となった。エネルギー安全保障が引き続き戦略上の必須課題であることを踏まえれば、当然の疑問が浮かぶ。あの水素はどこに行ってしまったのだろうか、と。

両氏の後継者たちの優先事項を見れば、その野心的な計画がなぜ実現していないのかがよく理解できる。ドナルド・トランプ氏の「アメリカ・ファースト」のアジェンダの下で再生可能エネルギーは脇に追いやられ、グリーン水素への道は狭まった。政府は低炭素のブルー水素プロジェクトを支援してきたものの、その支援はバイデン大統領のインフレ抑制法で約束された数十億ドル規模の投資には及ばない。

ドイツは、ウクライナ戦争との地理的近さと輸入エネルギーへの依存を踏まえ、厳しい戦略的判断を迫られている。フリードリヒ・メルツ氏は米国のカウンターパートとは大きく異なる見通しを持っているが、政策の「現実主義」を重視し続ける姿勢は、水素にとっても課題をもたらす。政府予算が圧迫されるなか、彼の実務的なアプローチは、より段階的な実施へとつながる。彼の政府はブルー水素にもより前向きであり、それは一部には、拡大する軍を含むドイツ経済の不可欠な部分にブルー水素が必要だという認識を反映している。

水素をめぐる新たな現実

その現実主義は、水素産業に関する当社の最新の詳細レポートの数字にも表れている。2050年に生産される水素の量は、2022年時点の予測を35%下回ると見込んでいる。クリーン水素はさらに大きく、45%減少する見通しだ。エネルギー転換に関する主流の予測機関の多くと同様、水素の高コストと政策実施の不足を受け、当社も見通しの修正を余儀なくされた。

その一方で、この産業が停滞しているわけでは決してない。世界中で約1500件のパイロットプロジェクトが発表されており、累積の水素投資額は2060年までに3兆2000億ドル(約508兆円)に達すると予測されている。そして、低い水準からスタートするものの、電気分解による再生可能グリーン水素は、同期間に100倍に成長する見通しである。

水素と派生製品の今後の展望

ホルムズ海峡の封鎖は、航空燃料や肥料など、社会に不可欠な製品にとって水素とその派生製品がいかに重要であるかを浮き彫りにした。短期的には、各国政府がサプライチェーンを守ろうとするなか、地政学的な出来事が水素プロジェクトの最終投資決定を加速させるだろう。これは欧州と中国でより多くのクリーン水素を意味するが、中国も水素需要を満たすために石炭に頼ることになる。

クリーン水素が脱炭素化のなかでコストの高い部類に入るという事実は、隠しようがない。業界を繁栄させるためには、補助金や、信頼できる炭素価格を含む義務化といった「アメとムチ」の政策が必要である。中国では、第15次5カ年計画における政策支援と国内の発電規模の急速な拡大により、水素が勢いを増している。一方、欧州では、世界最高水準の炭素価格が水素の追い風となっている。欧州と中国はともに、2040年までに大量のクリーン水素を生産する可能性が高い。それが実現するのは、クリーン水素自体に競争力があるからではなく、必要な支援が受けられるからである。

近年、中東は生産能力を構築し、欧州やアジアへの輸出パートナーとしての地位を確立してきた。将来の輸出パートナー候補たちが、再び同地域への水素生産の委託というリスクを冒す意思があるかどうかを予測するのは難しい。今年3月、世界最大のグリーン水素プラントとなるサウジアラビアのネオム(Neom)プロジェクトは90%完成したと推定され、その後、製品を流通させるための商業契約を締結した。同地域全体としての課題は、エネルギーの回復力(レジリエンス)が投資決定を引き続き左右する場合、他の大規模プロジェクトの建設に踏み切るだけのリスク許容度があるかどうかである。

水素のリスク低減

水素のリスク低減(デリスキング)は、業界を実証段階から産業規模へと移行させるための重要なステップとなる。課題は、資本を呼び込むのに十分な確実性を持って、大規模な供給を実現できるかどうかである。技術的能力と投資家の意欲との間には、依然として信頼感のギャップが存在しており、これを埋めることは投資を呼び込むためだけでなく、社会全体での受け入れを広げるためにも不可欠である。

水素の規模拡大は、単純なコピー&ペーストではいかない。プロジェクトがメガワット級の実証設備からギガワット級の施設へと移行するにつれ、小規模な段階では見えなかったシステム統合、安全性、運用の複雑さに関する新たなリスクが生じる。大規模化すると、リスクは個々の構成要素の中にとどまらず、電源、電解槽、圧縮、貯蔵、最終利用といったシステム間の相互作用の中に生じるようになる。このギャップを埋めるには、早期かつ体系的なリスク管理と、より高度な標準化が必要である。

公の議論の多くは水素の生産目標や導入のペースに集中しているが、業界の次の課題は投資家の信頼を築くことである。水素プロジェクトは、小規模な実証プラントから、エネルギー安全保障、産業の脱炭素化、クリーン燃料生産を支える産業規模の施設へと移行しつつある。しかし、多くの開発事業者は依然として、許認可、規制、標準化、そして将来の需要をめぐる不確実性に直面している。こうした課題への対処が重要なのは、水素の未来が技術的進歩だけでなく、大規模投資を引き出すために必要な信頼の構築にもかかっているからである。プロジェクトが成熟し、運用経験が蓄積されるにつれて、資金調達コストは低下すると見込まれ、クリーン水素がより効果的に競争し、エネルギー転換における役割を加速させる助けとなるだろう。

あの日のホワイトハウスでの記者会見の議事録は、多国間主義とグローバリゼーションがなお政策の推進力だった時代の、タイムカプセルに収められたメモのようである。当初の野心が完全には達成されていないとしても、電化が難しい分野を脱炭素化し、エネルギー安全保障と食料安全保障をますます提供していくうえで、クリーン水素が政策立案者の全面的な注意を必要としていることに疑いはない。

forbes.com 原文

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