「私たちが世界を変えているわけではない。世界が自ら変わっているのだ」とニムロッド・レハヴィ(Nimrod Lehavi)は、資金調達を終えたばかりの自身の会社について語った。
資金調達ラウンドを発表する日に、創業者が口にする言葉としては異例である。レハヴィの新会社Inevitable AI Groupは、テルアビブを拠点とするベンチャーキャピタルAleph(アレフ)が主導する600万ドル(約9億5300万円)のプレシード資金調達を公表した。Alephは、monday.comや買掛金管理企業Melio(メリオ)を初期から支援してきた実績を持つ。この資金の使途は明快だ。企業価値10億~100億ドル(約1兆5900億円)規模の大手ソフトウェア企業を対象に、その製品をAIでゼロから再構築し、それぞれを創業者1人・従業員なしで運営し、価格でオリジナルを下回るというものである。
「完全に製品をクローン化し、改良している」と、レハヴィはインタビューでこのビジネスモデルについて語り、それぞれの製品を、AIネイティブとして「ゼロから」構築すると述べた。同社は自らをベンチャー・スタジオと位置づけている。1月の立ち上げ以来、プレスリリースによれば5つのベンチャーを送り出しているが、レハヴィとの対談時点では「8つか9つ」に達していた。目標は約50社で、「年内にはさらに数十社を立ち上げる」予定だという。
レハヴィは、自分が波を起こしているのではなく、ただ波に乗っているだけだと率直に認める。「いわゆるAI企業のほとんどは、ただ波に乗っているだけだと思う。それ以外の連中は、それを大いに楽しんでいるよ」と彼は言う。彼は自分のスタジオも同じカテゴリーに分類し、自身の前作から現在までの道のりを直線的に捉えている。「私は火付け役のようなものだ」と彼は言う。かつて、その燃料は暗号資産だった。今はAIだ。
暗号資産の時代があったからこそ、Alephは彼の呼びかけに応じた。レハヴィは、取引所やウォレットがカードで暗号資産を販売できるようにした最初期の一社、Simplex(シンプレックス)を共同創業した。このサービスでは、すべての取引に対して不正利用やチャージバックの補償が提供されていた。決済プロセッサーのNuvei(ヌベイ)が2021年に同社を買収した。当時の報道では買収額は約2億5000万ドル(約397億円)とされていたが、レハヴィとInevitable AIのリリースではともに3億ドル(約476億円)としている。Simplexの共同創業者であり、現在は最高執行責任者(COO)を務めるオフェル・バルオア(Ofer Bar-Or)は、それまで半導体や通信分野で30年間のキャリアを積んできた。同社によると、彼はイスラエルのエリート軍事技術プログラム「タルピオット(Talpiot)」の卒業生でもあるという。
レハヴィによれば、今回の資金調達は想定外だったという。「ある意味、偶然だった」と彼は話す。もともとは自己資金(ブートストラップ)で運営するつもりだった。しかし、Simplexの最初の投資家だった友人がどうしても出資すると言い張り、他の投資家もそれに続き、最終的にAlephが加わった。「1社か2社をやる代わりに、50社をやることになった」。Alephのパートナーの1人であるエデン・ショハット(Eden Shochat)は、この発表における賭けの意義を次のように表現している。「SaaSは死にゆくのではなく、再発明されているのだ。AIは、顧客が必要に応じて自らのニーズに合わせたツールをオンデマンドで作成できる能力を提供する」
1人だけのソフトウェア企業
「もう言い訳は通用しない」とレハヴィは言う。「パートナーを待つ必要もなければ、CTO(最高技術責任者)を探す必要もない。投資家を探す必要すらないのだ」。彼のスタジオで創業したメンバーのうち2人は「一度もコードを書いたことがない」が、有料の顧客を抱える実稼働中の製品を運営しているという。これを可能にしているのが、元テスラのAI担当ディレクターでOpenAIの共同創業者でもあるアンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)が名付けた、誕生から1年ほどになる手法「バイブ・コーディング(vibe coding)」だ。これは、自然言語でモデルに指示を出すことでソフトウェアを開発する手法である。ある予測では、この市場はすでに47億ドル(約7460億円)規模に達しているとされる。
Inevitable AIは、このプロセスをシステム化している。各製品は、約6週間でターゲットとなる製品と同等のものとして構築される。製品には、質問に答えるだけでなく実際のアクションを実行できるチャットボックスが搭載されており、Anthropicが2024年末にリリースした、AIエージェントをソフトウェアに接続するための標準規格「Model Context Protocol(MCP)」に対応している。信じがたいのは、その従業員数だ。「実質的に、うちに従業員はいない」とレハヴィは言う。それぞれの製品が、創業者1人だけで運営されているのかと尋ねると、彼は一切言葉を濁さなかった。「すべてClaudeかOpenAIによって作成されている。人間の従業員はゼロだ」と彼は語った。
この現実を語る開発者は彼だけではない。「当社のCPO(最高製品責任者)は、Open Money StackのAPIを使って完全な送金アプリケーションをわずか5時間ほどでバイブ・コーディングした」と、Polygon Labsの最高経営責任者(CEO)であるマーク・ボイロン(Marc Boiron)はポッドキャスト番組『On The Margin』で語った。「次に勝利を収めるのは、少人数のグループで大規模なAIエージェントのチームを編成し、タスクを実行させる人々だろう」と、SingularityNETの創設者であるベン・ゲーツェル(Ben Goertzel)も同ポッドキャストで述べている。レハヴィ自身もそれを実践したという。ある製品のクローンを作る際、「決断してからローンチするまでに要した時間は24時間だった」と彼は語る。
開発コストのこの劇的な低下こそが、ソフトウェア業界でこの1年間続いたAI解雇の背景にある力であり、バイブ・コーディングが単なる珍しい試みから1つの確立されたカテゴリーへと進化した理由でもある。
買収されるための構築
同時に、既存のプレイヤーたちの市場価値も再評価されている。AIエージェントがID課金型(ユーザー数に応じた課金モデル)を形骸化させるとの懸念から、2026年初頭には「SaaSpocalypse(SaaSの黙示録)」と呼ばれるソフトウェア株の投げ売りが発生し、わずか2日間で推計2850億ドル(約45兆2000億円)の時価総額が吹き飛んだ。Alephが育成を支援したmonday.comは、2月のある1取引セッションで約21%急落し、上半期をほぼ半値で終えた。
レハヴィは、この再評価は一時的なものではないと考えている。こうした製品のコストは「90%から95%削減されるだろう」と彼は言う。「非常に小規模なチームで、その大半はAIを使い、極めて低コストで運営されなければならない」。企業にとって月額10万ドル(約1590万円)かかるツールであれば、社内で再構築する価値はあるが、月額100ドル(約1万円)であればその価値はない、と彼は指摘する。その結果、既存企業に残された選択肢は1つとなる。「彼らは、私たちが生み出しているような、AIファーストの非常に小規模なチームを必死に買い取ろうとするだろう」と彼は語る。「私たちはそのことを隠すつもりはない」
株価が急落するのを見守る既存企業にとって、「似たような製品を持つ極めて小規模な企業を買収することが自然な動きになる」とレハヴィは言う。これは仮定の話ではない。2024年以降、大手テクノロジー企業は、ライセンス契約を装ってAIスタートアップの創業チームを引き抜く「リバース・アクイハイヤー(疑似買収)」を通じて、推計200億ドル(約3兆1800億円)以上を費やしてきた。これには、マイクロソフトによるInflection AIの6億2000万ドル(約984億円)の案件も含まれる。Aleph自体にも最近同様の実績がある。1月、アップルは同社のポートフォリオ企業であるQ.aiを買収した。同社にとって史上2番目の規模の買収だったという。
もちろん、エンタープライズ向けソフトウェアを販売するすべての企業が、この「崩壊」の構図を受け入れているわけではない。「10%優れているだけではダメで、10倍優れていなければならない」と、DebtBookの最高経営責任者(CEO)タイラー・トラウト(Tyler Traudt)はポッドキャスト『On The Margin』で述べた。彼の会社は、信頼性とコンプライアンスが最大の防御壁(堀)となる政府機関や病院向けに、財務管理ソフトウェアを販売している。「多くの顧客にとって、AIは実際に強力な契機となるだろう」と彼は言う。「彼らはこれまでにないほどの生産性向上を目にし、それを手に入れたいと望むはずだ」
レハヴィ自身のスタジオにも、まだ課題はある。同社がすでにローンチしたとする5〜9個の製品の名前は明かされておらず、売上もまだわずかだ。最も規模の大きい会社がどれほど稼いでいるかを尋ねると、彼は「まだごくわずかだ」と答えた。最初の製品がローンチされたのは3カ月前だ。彼はこれまでにも時代の先を行き過ぎたことがあり、フィンテックの墓場は「早すぎた正論」を唱えた創業者たちで溢れている。
より大きな賭け
「2年後には、AnthropicやOpenAIですら、今ほどの規模ではなくなっていると主張したい」と、レハヴィは今回の対談で最も過激な予測を口にした。安価あるいは無料のモデルが急速に最先端モデルに追いついているため、ほとんどのユーザーはプレミアムな料金を支払うのをやめるだろうと彼は主張する。そして、これこそが彼のスタジオのビジネスモデルを成立させている要因でもある。APIの価格は2023年以降で90%以上下落しており、オープンウェイト(オープンソース系)のモデルは、多くのベンチマークで商用の最先端モデルにわずか数カ月遅れている程度でありながら、トークンあたりのコストは数分の一に抑えられている。
Animoca Brandsの共同創業者兼執行会長であるヤット・シウ(Yat Siu)は、さらに踏み込んだ見方を示す。オンライン広告の市場規模は「年間約9000億ドル(約143兆円)」にのぼるが、「そのすべてが、AIエージェントを介したトランザクション実行型の経済へと移行していくだろう」と同じポッドキャストで彼は語った。
「もう誰も大企業など必要としていない」とレハヴィは言う。彼の会社自体、立ち上げてからわずか7カ月であり、従業員はいない。「私は火付け役のようなものだ」と彼は言う。かつて、その燃料は暗号資産だった。「今はAIが燃料なのだ」



