幸福を感じる趣味に必要な要素
人間の動機づけに関する主要な理論である自己決定理論では、いくつかの基本的なニーズを満たしたときに活動はウェルビーイングに貢献する。誰かにやらされているのではなく、自発的なものなのだと実感できなければならない。時間とともに少しずつ上達しているという感覚も必要だ。さらに、その活動を通じて他の人々と交流できるとウェルビーイングの向上に大いに役立つ。
加えて、フロー研究で指摘されている条件、つまり注意を完全に引きつけるには難易度を十分に高く設定しなければならないという点もある。その条件が満たされると、普段私たちの頭の中の独り言がしばらく収まる傾向がある。この静けさこそ、ある活動によって「頭がすっきりする」と人々が表現する際の大きな要因であり、気が散っていてもできるような余暇の活動ではこの状態に達するのは著しく難しい。
ほとんどの趣味は、こうした要素のいくつかは満たすが全てを満たすわけではない。ランニングは自らの意思で選び、夢中になれるが、たいていは1人で行う。読書会は社交的だが、注意を完全に引きつけるほどやりがいがあることはめったにない。手の込んだ料理を作ることはほぼ全ての条件を満たし得るが、義務になった瞬間、自分の意思でしているという感覚がいつの間にか消えてしまう。適度に難しく、決まったスケジュールで行われ、しかも他の人たちと一緒に行う活動というのは意外と少ない。
「他の人と一緒に歌う」趣味が高評価な理由
グループで歌うことはほぼ偶然にもそうした条件を満たしている。始めるにあたって必要とするものは何もなく、また、熟練を要するほとんどの活動とは違って才能面で実質的なハードルもない。というのも、個々の歌声が弱くても全体の歌声に溶け込むからだ。そのため初心者でも1人で取り組むよりずっと早く「できる」という実感を得ることができる。
社会的な要素も他の普通のグループ活動とは異なる働きをする。誰も面白い人間である必要はなく、会話を盛り上げる必要もない。つながりは他の全員と同じ瞬間にある程度の労力を要する行動を共に行うことから生まれる。学術誌『Social and Personality Psychology Compass』に2025年に掲載されたレビューでは、他者と一緒に行動することで向社会的行動とポジティブな気分が強まることが明らかになっており、この効果は大人数のグループでも確認されている。新しく結成された合唱団に関する研究では、メンバー同士が個別に話すことが全くないような大規模なグループであっても非常に速く一体感が形成されることが示されている。
この最後の点は熟考に値する。人と人とのつながりがどのように形成されるかについて、多くの人が抱いている思い込みに反するからだ。一般には、親密になるには自己開示が必要で、相手に対して何らかの感情を抱くようになるにはまず自分自身について話さなければならないと考えられている。一緒に行う活動はそのプロセスを完全に迂回できるようだ。そのため、会話による交流に疲れや負担を感じる人々にとってこれは珍しい種の社会的接触となる。
生理学的な要素もある。歌うことはコントロールされたゆっくりとした呼気を促す。学術誌『Scientific Reports』に2023年に掲載されたメタ分析では、無作為化試験において、意識的な呼吸法がストレスや不安を軽度から中程度の範囲で軽減することが明らかになった。歌うことはウェルネスの実践として意識されることなくその効果をもたらすことができる。この相乗効果こそ、臨床医が処方箋を書く代わりに患者を地域活動に紹介する「ソーシャル・プレスクリプション」プログラムで地域の合唱グループが頻繁に取り上げられる理由の1つだ。


