日本はAI時代のスイスになれる?
ユー氏は、日本企業はシリコンバレーのAI業界の動きに重要なインパクトを与えうると話す。AIが基礎研究から応用の現場、企業での導入に移るにつれて、日本企業が果たせる役割は拡大していくはずだ。日本の市場規模、製造業の集積、半導体サプライチェーン、ロボティクス技術、そして大企業がもつ資本など、貢献できることはたくさんある。
日本企業は、自動車、産業機械、電子部品、素材、医療機器、物流などの分野で、長年にわたり技術とデータを蓄積してきた。こうした産業基盤は、AIがデジタル空間から物理世界へと進出するフィジカルAIの時代に、大きな強みとなり得る。
また、空前の日本ブームの中、日本の文化や生活環境に魅力を感じ、日本で一定期間、研究や開発に取り組みたいと考える海外のAI研究者も少なくない。そういった最先端人材を引きつけるチャンスが今、日本にはある。
ユー氏は、日本が米国と中国の研究者や企業が交流する「neutral ground(中立的な場)」になり得るとも話す。米中の地政学的な緊張が高まる中、日本が異なる地域の研究者や起業家をつなぐ「場」を提供できれば、それは日本にとって新たな国際的役割になるのではないだろうか。
日本企業は「見学者」で終わってはならない
一方で、現時点では、AGI Houseで開催されるフィジカルAIのディナーのような場に、日本企業や日本人のAIリーダーが十分に参加できていないことは非常に残念だと筆者は考えている。
日本企業は、最新技術を教えてもらう「受講者」や、有望なスタートアップを観察する「見学者」にとどまるべきではない。自ら産業課題を提示し、実証環境やデータを提供し、研究者や起業家と新しいプロジェクトを共同で設計する。そうした対等な関係を築くことで、コミュニティの中で存在感を示していくことができる。
また、このような場に、日本のAIのトップ人材が所属組織を超えて「個人」として参加し、自らの意見をぶつけ合い、コミュニティの一員として貢献していくことも非常に重要である。
AI時代の競争力を決めるのは、AIモデルや計算資源だけではない。誰と、どのような問いについて、どれだけ率直に、継続的に議論できるか。その人的ネットワークの質と密度が、技術開発と社会実装の速度を左右するはずだ。
AGI Houseは、一軒の豪邸という物理的な場所を超え、シリコンバレーのAI人材を結ぶ「知のハブ」になろうとしている。日本は、その動きを遠くから眺めるのではなく、日本の技術、人材、産業基盤を「現場」に持ち込み、自らそのネットワークの一部を形成していくことが重要になってくるだろう。


