従業員をオフィスに戻す(出社回帰)最大の理由としてよく挙げられるのが、「企業文化を醸成するため」というものだ。しかし、現代文明の歴史において最も古いアセットクラス(資産クラス)の一つである「不動産(オフィス)」が、なぜ企業文化を育むものだと誰もが思い込んでいるのだろうか。
私はキャリアのすべてを商業用不動産業界で過ごしてきたため、職場の重要性を否定するつもりは毛頭ない。それどころか、私の使命は郊外にワークスペースのネットワークを構築することだと公言している。そうすれば、人々、特に女性が、望まない限り人生のどのステージにおいても仕事を辞めずに済むからだ。
長年にわたり、私は何百ものオフィスを見てきた。驚くほど活気のある場所もあれば、精彩を欠く場所もある。そして私が身をもって知ったのは、その違いはオフィスそのものとはほとんど関係がないということだ。
文化は賃貸契約書にはついてこない
私が運営するコワーキングスペースで、同じ空間に入居した2つの企業を見たことがある。家具も、会議室も、アメニティもまったく同じだ。一方の企業は活気があり、人々が互いにつながっているエネルギーが伝わってきた。しかしもう一方は、まるで一刻も早く立ち去りたいと思わせる歯医者の待合室のようだった。違いをもたらしたのはオフィスではない。リーダーシップだ。
パンデミックから6年が経過した今もなお、企業がオフィス回帰の方針を発表し続けているというのは、にわかには信じがたい。そして、それはレイオフを公表せずに行う人員削減を目的としたものなのではないか、という議論が巻き起こる。しかし、それはより本質的な問いを無視してはいないだろうか。そもそも、なぜ「従業員が行きたがらないオフィス」が未だに存在するのだろうか。
私たちは2つの異なる問題を混同して議論している。一方は「制度(ポリシー)」で解決できるが、もう一方は「リーダーシップ」を必要とする。私はいつもスティーブ・ジョブズの有名な言葉を思い出す。「私たちが給料を払っているのは、彼らに何をすべきかを教えてもらうためだ。指示されたことをやらせるために雇っているわけではない。指示されたことをやる人間を見つけるのは簡単だ。難しいのは、何をすべきかを教えてくれる人間を見つけることだ」。従業員は、ウェブサイトに掲載されている理念やハンドブックに書かれている内容ではなく、日々の実態から企業が何を重視しているかを察知している。
「成果主義の企業」と言いながら、ボーナスが成果ではなくオフィスの入館記録(出社日数)に連動していれば、従業員は気づく。「ワークライフバランスを支援する」と言いながら、子供の発表会のために午後5時に退勤する人に冷ややかな視線を送っていれば、従業員は気づく。「メンタルヘルスが重要だ」と言いながら、有給休暇を取ることに罪悪感を抱かせるようであれば、やはり従業員は気づくのだ。
それこそが企業文化だ。タコ・チューズデー(タコスの日)でも、エスプレッソマシンでも、「#ペットの変な行動」というSlackのチャンネルでもない。企業文化とは、リーダーが実際に取る行動を見て従業員が学ぶものなのだ。
オフィスは異なる時代のために作られた
現実を見つめ直そう。私たちの多くは、未だに過去の職場の問題を解決しようとしている。テクノロジーは光速で進化しているが、職場には今なお5つの世代が混在しているため、私たちの多くは「全員が同じ建物にいなければ仕事ができなかった時代」を覚えている。
書類を共有したければ、文字通り誰かのデスクまで歩いて持っていった。電話線はオフィスの壁につながっていた。従業員をオフィスに来させるための「制度」など必要なかった。ほかに仕事をする方法がなかったからだ。
今日では、それはもう当てはまらない。最近の研究によると、自己愛(ナーシシズム)の傾向が強いリーダーほど、リモートワークに反対する傾向が高いことが分かっている。研究者らが提示した仮説の一つは、全員が物理的に同じ場所に集まっている方が、自身の地位や権威を示しやすいから、というものだ。
とはいえ、従業員をオフィスに戻したがるすべてのリーダーが不純な動機を持っているわけではない。人々を集めることには、多くの正当な理由がある。そのすべてが業績向上に直結しているわけでもない。私の夫と私は職場で出会った。廊下ですれ違った際、いつも笑顔でいる私を気に入ってデートに誘ってくれたのだ。
私たちはタイムゾーンを超えて協働し、あらゆる場所からZoomに参加し、20年前のオフィス全体の能力を超えるパワーを持つコンピューターを誰もがポケットに入れて持ち歩いている。私は本社のない中堅企業を経営しているが、私たちの企業文化は非常に強固だ。ウォーターサーバーの傍らで従業員が偶然鉢合わせすることに頼るわけにはいかない。コミュニケーションは意図的でなければならず、全員が「良い仕事をしたい」と思っているという信頼関係が必要だ。これらはすべて、全員が同じ建物で働くことで偶然生まれるようなものではない。
職場は今も重要だ。優れたオフィスはコラボレーションを容易にする。集中し、出会い、つながるための場所を人々に提供する。私はそのことを非常に大切にしている。なぜなら、それこそが私の会社が日々育んでいるものだからだ。
しかし、職場が単独で文化を創り出せるとは思わない。健全な文化を補強することはできる。不健全な文化を露呈させることもできる。だが、リーダーシップの代わりにはなれないのだ。
本社がなくても企業文化を強化するためにリーダーができる3つのこと
1. 推奨している(報酬を与えている)行動を見直す。過去1年間で、どのような人物を昇進させ、認め、称賛してきただろうか。彼らの行動は、企業のコアバリュー(基本的価値観)として掲げられた言葉以上に、自社の真の文化を従業員に雄弁に物語る。
2. 貢献を通じて帰属意識を育む。単に会議やハッピーアワーに参加しただけで、つながりを感じる人は滅多にいない。何かを築き上げる手助けをしたときに初めて、人はつながりを感じる。貢献が主体性を生み出し、主体性が帰属意識を生む。
3. 仕事は「万人向け(一律)」ではないと理解する。従業員が何を達成しようとしており、そのタスクを遂行する上でどのような環境が役立つかを考えるべきだ。同僚とブレインストーミングをするのに、図書館にこもる人はいないだろう。開発スプリントのためにホワイトボードを囲む作業と、財務モデルの分析に没頭する作業では、求められる環境が大きく異なる。行う仕事に合わせて環境を選べる柔軟性を従業員に与えるべきだ。
次に自社の文化について懸念を抱いたときは、不動産仲介業者に連絡するのではなく、リーダーシップを見直すことから始めてほしい。結局のところ、従業員の記憶に残るのは建物ではない。その中にいた人々のために働いたときの、あの感覚なのだ。



