「それ、精度は大丈夫なのか」
さて、この話をセミナーや面談ですると、必ず同じ質問が返ってきます。
「AIの仕訳、精度は大丈夫なんですか」
正しい疑問だと思います。AIは自信満々に間違えることがあります。それは4カ月前も今も変わらないAIの性質で、記帳を自動化した帳簿には、一定の割合で誤りが混ざります。科目のブレ、二重計上、消費税区分の誤り。人間が入力しても混ざるものが、AIでも混ざります。
ですから、従来の答えはこうでした。「最後は人がチェックするので大丈夫です」。
嘘ではないのですが、この答えには弱点があります。チェックという仕事こそ、経理の中で最も属人的で、最もスケールしない業務だからです。ベテランは帳簿を眺めて「ここが怪しい」と当てます。しかし、その勘は本人の頭の中にしかなく、疲れていれば見落としますし、退職すれば消えます。作る側だけ自動化して、見る側が人間の勘のままなら、自動化の量が増えるほどチェックは追いつかなくなります。
この4カ月で変わったのは、まさにここです。チェックの一次工程が、自動化できるようになりました。
先に強調しておきますが、AIがチェックしたからクリア、という話ではありません。私の事務所の建て付けは「一次レビューはAI、二次レビューは人」です。監査法人にいた方なら、調書の一次査閲・二次査閲を思い浮かべていただくとよいと思います。一次レビューのAIは、全件を同じ濃度で薄く広く当たって「怪しい箇所のリスト」を作ります。二次レビューの人間は、そのリストに絞って証憑を開き、事実を確かめ、処理を決めます。全数を見る根気はAIが、深さは人が受け持つ分業です。
ベテランの「勘」を、観点表に書き出す
一次レビューのAIは、何を根拠に「怪しい」と言うのか。やったことの本質は記帳のルール表と同じで、ベテランが帳簿のどこを見て「怪しい」と感じているのかを、一つずつ言葉にして書き出しました。実物から、いくつか引用します。
「資産科目がマイナス残高になっていないか。資産のマイナスは物理的にありえない。入力ミスの最短発見ルート」
「期中に現金・預金がマイナスになった日はないか。期末残高だけ見ると正常でも、期中にマイナスがあれば必ずどこかが間違っている。月末だけを見る点検では絶対に見つからない」
「同じ支払が二重に入っていないか。口座連携とレシート取込を併用すると、同じ取引が2回計上され、費用も消費税の控除も二重になる」
「売掛金が3か月以上動いていない取引先はないか。『請求し忘れ』『入金済みなのに消し込んでいない』『本当に回収できていない』の3択で、どれでも即対応すべき話」
「預り金が膨らみ続けていないか。源泉所得税の納付漏れのサインで、放置すれば不納付加算税がすぐに発生する。ただし納期特例の会社は半年分溜まるのが正常なので、その会社の前提とあわせて判定する」
「役員報酬が期中で変動していないか。定期同額給与は最も基本的で、最も多く否認される論点。月次推移を見れば一発で分かるのに、決算で気づいたら手遅れになる」
「10万円以上の買い物が消耗品費に落ちていないか。資産計上漏れの定番。判定は1個あたり・取引単位で行うので、まとめ買いは現物の確認が要る」
「期末前後1カ月の売上の帰属は正しいか。売上の期ズレは法人税と消費税の両方に効き、税務調査で最初に見られる論点。期末月と期首月だけ証憑と突合すれば、少ない工数で最大のリスクが潰せる」
私の事務所では、こうした観点が現在約140個あります。それぞれに「なぜ見るのか」「どの金額規模から問題にするか」まで書いてあります。会社の規模によって「大した金額」は違いますから、重要性の基準を年商に連動させて、指摘の足切りラインも会社ごとに自動で変わるようにしました。監査法人で叩き込まれた手法の移植で、「入金の事実から帳簿を逆にたどり、帳簿に載っていない売上を探す」「期末の売掛金残高を翌期の入金と突合して実在性を確かめる」といった監査の実証手続そのものも観点に入れています。
この観点表をAIに渡して帳簿を読み込ませると、約140の観点で総当たりの一次レビューが走り、「要訂正」「顧問先への要確認」の重み付きで指摘一覧が数秒で出てきます。


