AI(人工知能)ハードウェアの世界には、競争相手がそれほど多くいるわけではない。ほとんどゼロサムゲームだと評する声もある。たとえばスペースXAI(旧xAI)と、同社の巨大AIスーパーコンピューター「Colossus(コロッサス)」を手がける面々は、今後はエヌビディアのGPUしか使いたくないと公言している。こうしたAIハードウェアの販売で支配的な地位を握った結果、エヌビディアの株価は大きく伸び、時価総額では2024年11月にアップルを、2025年6月にはマイクロソフトを上回った。AIマイクロプロセッサーという新しい世界でエヌビディアが王者であることを示す材料は、これに限らずいくつもある。しかも、2番手と呼べる存在は多くない。
だからこそ、アーム・ホールディングス(Arm Holdings)をめぐるニュースは興味深い。同社が自社製のチップ「Arm AGI CPU」を販売するという話が、2026年3月に伝わったのだ。初期システムはすでに一部が入手可能で、より広い供給は2026年後半と明らかにしていた
ニューヨーク・タイムズのドン・クラークは「日本のソフトバンクグループ傘下にある英国企業の同社は、米国時間3月24日、1990年の創業以来はじめて自社で設計・販売する半導体製品の計画を発表した。これはAIの処理を動かすデータセンター向けのマイクロプロセッサーだ」と書いた。
初期の顧客としてメタが名乗りを上げたことも、あわせて明らかになっている。
アームがこの領域で競争に加わるとは、どういうことなのか。舞台裏をのぞいてみると、当事者同士の距離が近すぎる相関図が浮かび上がり、かなり奇妙なことになっている。
ノキア時代から続く省電力設計、エヌビディアとは狙いが異なる
そもそもアームは初期のころ、ノキアの携帯電話やPDA(携帯情報端末)といった機器向けに、他とは異なる設計思想にもとづく設計を手がけていた。RISC(Reduced Instruction Set Computing。縮小命令セットコンピューティング。チップが実行できる命令の種類をあえて絞り込む設計方式)と呼ばれるものだ。
考え方はこうだ。チップがあらゆる処理をこなす必要はなく、その機器に必要な仕事だけをこなせばよいとするなら、チップはより小さく、電力効率の高いものにできる。
エヌビディアがやっているのは、これとは違う。首位を走る同社が作っているのは、LLM(大規模言語モデル)の生成に照準を合わせた、AIを前提とする技術である。とはいえ、アームの製品が現在の市場でどう機能するのかについては、疑問符が残る。



