「鉄鋼業界」と言うとき、一般的には製造業者、鋳造業者、流通業者、圧延業者、加工業者など、多くの対象を指している。これらの企業はそれぞれ異なる技術ニーズを抱えているが、相互に多くの取引を行っているため、その技術が重複することも少なくない。
一方、AIはこの業界に変化をもたらし始めており、その影響力は増大している。2027年までにビジネス上の意思決定の50%がAIエージェントによって拡張または自動化され、2030年までに業務の最大50%がAIによって拡張されると予測されている。鉄鋼業界は何十万人もの労働者を雇用し、年間GDPに2000億ドル(約31兆9000億円)以上をもたらしている。この業界がAIをどのように活用するかは、無視できない影響を与えるだろう。
そこで、筆者が注目している動向を以下に紹介する。
IoTによるモニタリング
Norican Groupが開発した「Monitizer」は、製造、特に砂処理システムを監視するIoTプラットフォームだ。そのAI技術は、砂の溶解や造型のプロセスを追跡し、品質に影響が及ぶ前にオペレーターが問題に対処できるようにする。
導入企業の一つであるミシガン州の鋳造業者Gredeによると、同プラットフォームはコストや不具合の削減、ダウンタイムの改善方法をより深く理解するのに役立ち、最終的には業務全体の効率向上につながっているという。
同社は、Monitizerのリアルタイムデータと分析により「砂と設備の両方を最適化するための包括的なソリューション」が得られたとしており、同社のある鋳造所では、砂の混入を最適化するだけでスクラップ(廃材)を50%削減できたという。
あるマネージャーは、「工場ごとに状況を比較してばらつきを確認できるだけでなく、カスタマイズ機能によって特定の装置に特化した詳細な情報も把握できる」と語った。
リサイクルロボット
それは「Tom」と呼ばれ、Max-AIが製造している。少なくとも、ある顧客はそう呼んでいる。
Max-AIはリサイクルおよび資源回収業界向けの人工知能とロボットシステムを開発しており、同社ウェブサイトによると、独自の技術でコンピュータービジョンとディープラーニングを組み合わせ、高い精度と一貫性で素材を識別、分類、回収する。同社は世界中で数百台のロボット選別機を導入しており、「インテリジェントなリサイクル自動化のフロンティアを拡大し続けている」としている。
Tomは、廃棄物の流れからアルミ缶やプリント基板を切り出す。AIはレーザーを使用して形状と色を認識し、それを取り出して分類する。
「このロボットは、休憩を取ることなくシフト中ずっと稼働し続けることができる」と、ある顧客は語っている。「効率が大幅に向上する。これにより、工場の管理者はスタッフをより有益な方法で活用できるようになる」
AIグローブ
「Ironhand Glove」は、人間の神経、筋肉、腱に匹敵するセンサー、アクチュエーター、人工腱を使用しており、装着者の筋力を高め、工具を握り続けるとすぐに生じるような疲労を軽減する。Ironhandグローブの最も一般的な用途は手動での研削作業だが、作業員が鋳造物を持ち上げるプレス作業や、その他の反復作業にも使用されている。
顧客の一社であるWaupaca Foundryは、このデバイスを自社業務のさまざまな領域で活用している。
「Ironhandは、エアツールを長時間保持するのに非常に役立つ」と、研削オペレーターの一人は述べた。
「グローブが動きをサポートし、作業の大部分を肩代わりしてくれるので、大きな違いがある」と別のオペレーターは語った。「腕に伝わる振動もかなり抑えられた」
ロボット犬
ロボット分野のリーダーであるBoston Dynamicsが開発した「Spot」と呼ばれるこのロボットは、労働者の危険への露出を最小限に抑え、リスクを軽減しながら、高炉エリアの検査や、高温でガスが充満するゾーンの監視などを行うことができる。Spotは自律的に移動し、従来のロボットでは進入が難しかった狭いエリアにもアクセスできる。また、センサーを使用して精密な検査を実行することも可能だ。
韓国の大手鉄鋼メーカーは、熱画像カメラ、ガス検知センサー、AIビジョンシステムを搭載したSpotを複数台導入した。これにより、これまでは人間の検査員が高温かつ高リスクな環境下で担当していた高炉、転炉、圧延工場の検査、監視、安全パトロール業務を行っている。
収益の拡大
スタンフォード大学発で、著名な投資家数社から出資を受けているスタートアップのEmanateは、AIを活用して鉄鋼および関連業界の企業がより迅速に収益を上げるのを支援することを目指している。
Emanateのプラットフォームは、アカウント、電子メール、フォローアップ、レポート作成を統合し、見込み客の特定、パイプラインの構築、エンゲージメントの追跡(および再アプローチ)、さらには見込み客や顧客とのコミュニケーションを行う。
同スタートアップの初期投資家の一人であるAndreessen Horowitzのゼネラル・パートナー、ジョナサン・ライは「企業のAI導入の多くはコスト削減を目的として販売されている。Emanateは売上(トップライン)の成長を促進するAIを構築し、現代経済のバックボーンでありながら見過ごされがちな巨大な産業資材市場に焦点を当てている点で際立っている」と述べている。
高度なERP
「C3AI」は、企業の既存システムと連携してすべてのデータを統合するエンタープライズAIプラットフォームだ。ビジネスの統一モデルを作成し、AIを適用して需要予測の改善、在庫レベルの最適化、生産計画のスケジューリング支援、機器故障の予測などを行う。
C3 AIの顧客であるNucor SteelのAI・エマージングテクノロジー部門マネージャー、ガウラブ・マルホトラは、次のように述べている。「私たちが注力していることの一つは需要予測であり、材料に対する需要のバランスをどのように取り、より正確に予測できるかということだ。在庫の最適化は、運転資本を適正化し、統合されたサプライチェーンに供給するのに役立つ」
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上記の技術に加えて、同業界の大手企業は、生産性を高めマージンを改善するために、AIベースのソリューションに多額の投資を行っている。
カスタマーポータル
例えば、Kloeckner Metals USAは、クラウドベースのデジタルAIプラットフォーム「Kloeckner Connect」を開発した。Kloeckner Connectのアカウントを開設した顧客は、リアルタイムの在庫状況の確認、24時間365日の注文、注文ステータスの追跡、在庫管理を単一のポータルで行うことができる。同社によると、このシステムは在庫最適化のために構築されたもので、サプライチェーンの可視化と予測の精度を高めるという。
AIによる推論
オハイオ州クリーブランドに本社を置く、平鋼板メーカーであり鉄鉱石ペレットのサプライヤーでもあるCleveland-Cliffsは、データベース企業のPalantirと最近提携し、生産計画、受注エントリー、在庫管理、業務調整の各機能に高度なAIソリューションを導入した。これにより、データをより適切に統合し、制約を予測し、各施設の活動をリアルタイムで調整できるようになる。Cleveland-CliffsはPalantirのAI技術を使用することで、抽象的なAIの推論と、サプライチェーンロジスティクスの最適化や機器故障の防止といった現場でのリアルタイムな行動を橋渡ししている。
同社のローレンコ・ゴンカルベスCEOは、「この取り組みにより、最終的には人間の経験に依存した計画から、当社の業務の複雑さに合わせて拡張可能な、AIが支援する新たな強化された意思決定システムへと移行することになる」と語った。
エージェント
インドのTata Steelは、Google Cloudを活用し、製造、サプライチェーン、人事、財務、調達、カスタマーサービスの分野に300以上の特化型AIエージェントを導入している。社内のローコードプラットフォームにより、ソフトウェア開発者や現場のマネージャーなど、データサイエンティストではない従業員でも、独自の特化型AIエージェントを構築、テスト、導入することができる。AIを産業用ワークフローに直接統合することで、同社は従来のモニタリングから、能動的でリアルタイムな介入へとシフトした。また、管理業務のボトルネックを解消するためにも、エージェント型AIを活用している。
同社のチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)であるジャヤンタ・バナジーは、「これは単に新しいツールの導入にとどまらず、当社の従業員が洞察に基づいて即座に行動できるようにする、継続的な実行エンジンなのだ」と述べている。「資産の保守予測から顧客対応時間の短縮に至るまで、私たちはエージェント型AIを利用してビジネスの最も複雑な部分を簡素化し、まったく新しい規模で実行を推進している」
分析
70以上の国際市場を対象とする巨大な鋳造企業であるEmsteelは、データエンジニアリング、データウェアハウス、ビジネスインテリジェンスツールを統合環境に集約したクラウドベースのAI分析プラットフォーム「Microsoft Fabric」を導入した。Emsteelは、データソースの統合、ワークフローの自動化、手作業によるレポート作成への依存度の低減を目的として、このプラットフォームを導入した。
同社のCTOは、「これらのツールとサービスは、運用データを文脈化してビジネスの意思決定に結びつけ、予測的なインサイトとプロセス最適化を提供している」と語った。



