量子技術には、資金だけでは解決できない採用の問題がある。同業界は今後15〜30年で数十万件の雇用を創出すると予測されているが、マッキンゼーによると、世界全体で3件の求人に対して、要件を満たす候補者は1人しか存在しないという。
パリを拠点とするスタートアップ、クアンデラ(Quandela)のチーフ・オブ・スタッフであるマリーン・ゼック=ガスパは、フォトニクス(光工学)エンジニアのような専門職において、世界中の現実的な候補者プールはわずか12人ほどに縮小することもあると指摘し、このボトルネックを鮮明に表現している。
この人材不足は10年近く議論されてきたが、その様相はいま変わりつつある。EUは毎年数十万人ものSTEM分野の卒業生を輩出しているにもかかわらず、ソフトウェア、システムインテグレーション、応用エンジニアリングにおける量子特化型の人材供給パイプラインは、世界規模で見てもなお危機的に細い。
ようやく商業化へ向かう人材市場
量子経済開発コンソーシアム(QED-C)の報告によると、5年ぶりに量子関連の求人数がインターンシップの枠よりも速いペースで増加している。これは、組織がより高い報酬を支払い、より長期的な雇用を約束できるようになっていることを示す、わずかではあるが明確な兆候だ。同様に、需要の構成もその規模とともに変化している。
同QED-Cレポートによると、純粋な量子関連企業(ピュアプレイ企業)の労働力において、オペレーション重視の職種が2番目に高い割合を占めるまでに上昇した。ビジネス開発が3位にランクインする一方で、研究者の割合は前年から3ポイント低下した。研究活動が消え去るわけではない。しかし、商業開発や組織のスケールアップがようやく構成要素として現れてきた。成熟しつつある産業とは、まさにこうした姿である。
学歴要件の状況も変化しており、あるデータセットによると、追跡対象となった職種の55%が大学院卒未満の学位しか求めておらず、学術誌『EPJ Quantum Technology』に掲載された別の研究でも、博士号を求めている求人広告はわずか34%にとどまることが分かった。
雇用主は企業が圧倒的多数を占めており、EPJ Quantum Technologyが分析した3600件以上の職種において、米国で77%以上、EU27カ国で71%以上の求人を企業が占めている。その中でも、IBM、グーグル、マイクロソフト、エヌビディアが特に活発に採用を行っている。一般的な認識に反して、市場全体における戦略的な意味合いは、人材市場があまりにも小さいため、経験豊富な専門家だけの採用を目指すアプローチは失敗するということだ。
企業は、フォトニクス、半導体、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)といった隣接する領域から人材を採用し、そのうえで体系的な転換トレーニングに投資する必要があるだろう。
どの国も単独では成し得ない
経済協力開発機構(OECD)はある結論に達しており、これは世界中の政策立案者が真剣に受け止めるべきものだと思う。それは、量子分野の労働力需要を国内だけで満たせる国は存在しないということだ。
QED-Cによると、カナダ、ドイツ、フランス、英国、インドは、2025年にそれぞれ200人以上の純粋な量子関連労働者を増やし、同セグメントにおける世界全体の成長の約4分の3をこれら5カ国が占めた。しかし、教育資金を提供しながら卒業生を海外に流出させている国々は、事実上、競合国に補助金を出しているようなものだ。
例えば、英国の量子スキルタスクフォースによると、量子関連コースの受講者のうち自国出身者はわずか51%であり、これは科学分野全体の学生と比べても自国出身者の割合が低い。それでも、欧州の量子スタートアップ全般における商業化リーダーの不足を解消するためには、海外の人材が不可欠になると確信している。
主要地域はいかに量子人材パイプラインを構築しているか
労働力の育成は現在、正式な産業政策に組み込まれている。米国の国家量子イニシアチブ(NQI)は2019年から2024年の間に、各種プログラムに25億ドル(約3980億円)を投資した。また、チャタヌーガ量子コラボレーティブ(Chattanooga Quantum Collaborative)とBuildWithinは、物理学者ではなく現役のITスペシャリストを対象とした、有給の12週間の全米初の量子プレ・アプレンティスシップ(見習い前訓練プログラム)を開始した。
同様に、カナダの量子アルゴリズム研究所(Quantum Algorithms Institute)は、筆者が共同執筆したカナダの量子ユニコーンに関する記事で取り上げた4社のうち3社のカナダの量子ユニコーン企業と連携し、量子産業への包摂的なキャリアパスを促進するための「量子キャリア・イニシアチブ(QCI)」を2024年に立ち上げた。
また、欧州もこうした野心的な試みに呼応しており、2026年5月に約2300万ドル(約36億6000万円)を投じて立ち上げられた「欧州量子アカデミー」を通じて連携を進めている。これには20カ国以上、約70の提携機関が参加しており、同セクターは2040年までに約1750億ドル(約27兆8000億円)規模に達すると予測されている。
アジア、オーストラリア、そして中国を巡る問題
アジア太平洋地域では企業主導の人材育成が進んでおり、PsiQuantum(サイクオンタム)、東京大学、三菱ケミカルによる提携関係がその一例だ。最近では、日本のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けた6カ月間のトレーニングプログラムに、20社以上から80人以上の参加者が集まり、フォールトトレラント(耐故障性)量子コンピューティングの基礎を学んだ。
オーストラリアでは、シドニー量子アカデミー(Sydney Quantum Academy)がその「産業体験プログラム(Industry Experience Program)」を学部生や社会人プロフェッショナルに対象を拡大しており、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、2045年までに国内で1万9400件以上の量子関連の雇用が創出されると予測している。
中国は、この見取り図において最も重要であり、かつ最も実態が見えにくい存在だと筆者は考えている。なぜなら、QED-Cの純粋な量子関連企業の労働者数テーブルでは、中国の労働者はわずか98人しか記録されていないからだ。この数字は国の実態というよりも、公開情報のみに基づく調査手法(パブリックソース・メソドロジー)を反映したものにすぎず、実際には中国は2025年における世界の量子特許出願の54%を占めている。
人材は確実に存在するものの、目に見えるスタートアップよりも、国が支援する研究機関に集中している可能性が高い。そして、その優位性を支えているのが「規模」だ。現在、中国は年間7万7000人以上のSTEM分野の博士号取得者を輩出しており、これは米国の約2倍の規模に相当する。
中国の国家プログラムの多くは、潘建偉(パン・ジエンウェイ)や陸朝陽(ルー・チャオヤン)といった海外からの帰国組によって構築され、彼らは2008年の「千人計画」を通じて、機関レベルの採用帝国を築き上げた。したがって、一見すると最近の急増のように思える現象は、実際には20年前に策定された採用戦略の成果なのだ。
量子人材の勢いは本物だが、まだ持続可能とは言えない理由
採用のすそ野はまだ狭いものの、量子分野の人材需要は本物だ。QED-Cが毎月実施している量子関連求人数のモニタリングによると、数カ月連続で増加を維持することは困難であることが示されており、これは成熟したエコシステムというよりも、新興のエコシステムに特徴的なパターンである。
しかし、技術革新(ブレイクスルー)が加速するにつれて、人材不足は大手企業が主に人材の確保を目的としてスタートアップを買収する(アクハイアリング)動きへとつながる可能性がある。これは2010年代初頭のAIブームの初期に起きたことと同様だ。
投資家や政策立案者にとって、労働力はハードウェアのロードマップや誤り訂正のマイルストーンよりも、同セクターにおける最も明白な短期的制約要因となっている。
量子ビットを巡る技術競争は広く注目を集めているが、それ以上に静かに進行しているのが、これらのマシンを設計・導入し、商業化する人材を育成する競争だと筆者は見ている。この人材育成競争こそが、どの地域や企業が量子の可能性を持続可能な優位性へと変えられるかを決定づけることになるだろう。
決定的な課題は、先行者利益を得られる窓が閉じる前に、十分な速さで人材を育成し、国内に留めておけるかどうかだ。特に、給与水準がAI分野で見られるような天文学的なレベルに達した場合、一部の地域では追随することが困難になるかもしれない。



