「世界中のすべての水も、船の中に入らない限り、その船を沈めることはできない。世界中のすべてのネガティブさも、心の中に入らない限り、人を沈めることはできない」 ―― メアリー・ピックフォード『Why Not Try God?』(1934年)
メアリー・ピックフォードがこの言葉を書き残したのは、表舞台における人生のどん底期だった。かつて彼女は世界で最も有名な女性であり、「アメリカの恋人」と称され、映画会社ユナイテッド・アーティスツの共同創設者でもあった。女性プロデューサーがほとんど存在しなかった時代に、自ら製作を指揮するほどの存在だった。しかし、トーキー映画の時代が到来する。大物スターとしていち早くトーキーに挑戦したものの、結果は振るわず、観客の関心はマレーネ・ディートリヒやメイ・ウエストといった新星へと移っていった。1933年の映画『Secrets』は赤字に終わり、彼女は女優としてのキャリアが終焉に向かいつつあることを察していた。時を同じくして、ダグラス・フェアバンクスとの結婚生活も破綻。訴訟や容赦のないメディアの批判に追われる日々を送っていた。
1934年、彼女は「心の中に招き入れることを拒んだもの」について綴った短い著書を出版した。冒頭の言葉はその本からの引用である。重要なのは、この言葉が問題の本質を「船体」そのものへと移している点だ。船の外で起きている嵐に焦点を当てるのではなく、中に何を入れ、何を入れないかをコントロールする「自分自身の力」に焦点を当てているのだ。
なぜこれが「心の知能指数」の問題なのか
目標や仕事で成果を上げるために、自分と他者の感情を理解し、管理する能力である「心の知能指数」は、主に4つのスキルに分類される。
- 自己認識:自分の感情を認識し、理解する能力
- 自己管理:自分の感情をコントロールし、適切に対処する能力
- 社会的認識:他者の感情を認識・理解し、共感する能力
- 人間関係管理:上記のスキルを総合的に活用し、他者と良好な関係を構築・維持・発展させる能力
ピックフォードの言葉は、この2つ目の領域である「自己管理」にぴったりの好例だ。これは、ある感情が生じたときに、それに対してどう振る舞うかを選択する能力を指す。私たちはしばしば、意志の力で感情を「ねじ伏せよう」とする。しかし、ピックフォードの比喩を借りれば、意志の力は船体ではない。それは浸水した水を必死に掻き出す作業にすぎない。そんな過酷で勝ち目のない闘いは、ただ心身を疲弊させるだけだ。
そうではなく、自身の価値観を深く理解し、外からの困難をその価値観に照らし合わせることで、そもそも浸水を許さない頑丈な船を造ることができる。
科学研究が証明する「価値観の再確認」が船を守るという事実
J・デビッド・クレスウェル博士らの研究チームは、これを実験で直接検証した。被験者85名に、実験室でのストレス負荷テストを受ける前に、「価値観を自己確認するタスク」または「対照群用のタスク」のいずれかを行わせた。その結果、事前に自分の価値観を確認する時間を設けたグループは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が著しく抑制された。自分にとって何が重要かを振り返ることで、プレッシャーに直面した際の生体反応そのものが変化したのだ。
サンダー・クール博士のチームも、価値観と「反芻(ぐるぐる思考)」の関係に焦点を当てた同様の研究を行っている。3つの実験を通じ、被験者にダミーの知能テストを受けさせ、失敗したというフィードバックを与えた。失敗のフィードバックによって反芻は増加したが、自分にとって重要な側面(価値観)を再確認させると、その反芻が減少した。特に重要なのは、3つ目の実験において、失敗を告げられる前に価値観を確認しておくだけでも、反芻を抑える効果があったことだ。
今日からできる実践的な戦略:「価値観の読み返し」
まずは一度、自らの核となる価値観や信念を紙に書き出してみよう。分量は1ページ。平易な言葉で5〜7項目を挙げ、それぞれがなぜ大切なのかを1文で説明する。そして、将来への不安や目の前のストレスなど、ネガティブな感情が芽生えたときにそれを読み返すのだ。
このアプローチ自体は非常にシンプルだが、実行に移すことで真価を発揮する。例えば、親族が集まる食事の席で、義理のきょうだいから「儲からない仕事だ」と皮肉を言われ、その言葉が頭から離れなくなったとする。そんなぐるぐる思考に陥りそうになったら、スマートフォンのメモアプリに保存した「価値観のページ」を読み返す。すると、「自分が教師という仕事を選んだのは、金稼ぎのためではなく、人を助け、より良い未来を築くためだ」という原点を思い出すことができる。
数カ月も続ければ、このページの内容が頭に染み込み、ネガティブな感情が湧き上がっても、自然とそれを自分の価値観に照らし合わせて対処できるようになるだろう。
この言葉を実践に移すために
最終的にピックフォードの女優としてのキャリアは途絶えた。しかし、彼女はその後も45年にわたり、プロデューサー、慈善活動家、そして映画スタジオの有力者として生き抜いた。一つのことの終わりが、自分の人生の視界すべてを曇らせるのを許さなかったからだ。
今週、20分だけ時間を取って、あなたの核となる価値観を書き出してみよう。そして、日曜日のカレンダーに「5分間の読み返し」を予定として登録する。どんな船であれ、水に直面することは避けられない。唯一コントロールできるのは、浸水を防ぐ船体が準備できているかどうかだけだ。
ケビン・クルーズは、心の知能指数のトレーニングを提供するLEADxの創設者兼CEO。ニューヨーク・タイムズのベストセラー著者でもある。彼の無料EI診断はこちらから受けられる。心理学的に妥当性が検証されており、4つの中核スキルごとにスコアの内訳が示される。



