ホルムズ海峡で通航料を徴収しても、原油価格が上昇することはない。この事実は経済予測の核心だ。通航料の徴収により、イラン以外の産油国の純収入は減少するものの、世界の原油価格を押し上げることはない。この結論は、単純な需給分析から導き出される。世界的な景気後退が起きない限り、原油需要は衰えないだろう。前述の通り、供給量はわずかに減少するだけだ。したがって、原油価格は紛争前の水準をわずかに上回る程度にとどまるものと予想される。通航料は、単に誰がその収入を得るのかを変えるだけだ。通航料が安ければ、イラン以外の産油国側が有利となる。逆に通航料が高ければ、短期的にはイランの財政にとって有利だが、支払う側からの反発を招くことになる。
湾岸諸国の対抗策はパイプラインと軍備増強
しかし、1~2年もすれば、他の湾岸諸国もイランの通航料に対する何らかの措置を取ることが予想される。サウジアラビアは紅海沿岸の港へのパイプラインの輸送能力を増強するだろう。UAEは既にホルムズ海峡付近に位置するオマーン湾へのパイプラインを保有しており、これを拡張することも可能だ。イラクはトルコへと通じるパイプラインを保有しており、これも拡張が可能だが、両国は現在、イラク北部のクルド人自治区での石油生産などを巡って対立している。今後1年間で何が起こるにせよ、湾岸諸国は代替輸出経路の拡大に取り組むことになるだろう。
湾岸諸国はイランによる妨害に対抗するため、自国の海軍と空軍を増強する可能性が高い。現在の軍事技術では、強固な敵を前にして安全な航行を確保することは極めて困難だ。サウジアラビア、クウェート、UAEなどの湾岸諸国の連合は、イランのペルシャ湾の航行を脅かすのに十分なミサイルや無人機を確保する可能性がある。イランと湾岸連合は互いの社会基盤を標的としたミサイルを発射するかもしれない。恐らく両者はホルムズ海峡の航行を継続するための何らかの合意に達するだろう。十分な軍事力があれば、他の湾岸諸国も同海峡の航行の自由を巡って交渉するかもしれない。
米経済が受ける影響
本稿で提示した地政学的シナリオでは、米経済は引き続き堅調に推移するだろう。原油価格の動きが景気後退を引き起こすことはない。米国は体面を保つために何らかの説明をすることはできるだろうが、イランの核開発を阻止するという目標を達成できるかどうかは疑わしい。だが、イスラム教シーア派のヒズボラ、パレスチナのハマス、イエメンのフーシ派といったイスラエルと敵対する武装組織に対するイランの支援を弱めるという目標は恐らく達成されただろう。
長期的には、湾岸諸国は石油輸出や消費財輸入の代替経路の確保に一層力を入れるだろう。解決には費用を伴うが、米国とイランの紛争は、石油輸出を単一の経路に依存することの危険性を浮き彫りにした。


