東急不動産グループのライフ&ワークデザインとForbes JAPANが共催するトークセッション「次の10年をつくる―支持される事業の設計図―」が7月17日に開催された。
登壇したのは、hacomono代表取締役CEOの蓮田健一と、matsuri technologies代表取締役の吉田圭汰。急成長するスタートアップを率いる二人が、事業を持続的な成長へ導くための設計思想や、顧客から選ばれ続けるサービスの条件について語り合った。
「ファウンダー・マーケット・フィット」にこだわる理由

東急不動産グループのライフ&ワークデザインが運営する会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート」は、単なるワークスペースではない。利用者同士が出会い、共鳴することで化学反応が生まれ、ビジネスが飛躍する。飛行機が飛び立つように、起業家が飛び立つことをコンセプトにしている。
そうした飛躍を後押しするためのイベントが7月17日、ビジネスエアポート日比谷で開催された。Forbes JAPANが毎年春に開催する「RISING STAR AWARD」のコミュニティイベント「ECHO TO LEAP(共鳴し、波及していく)」であり、ビジネスエアポートと共催した。
メインプログラムであるトークセッションでは「次の10年をつくる―支持される事業の設計図―」をテーマに、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング 2026」で2位に輝いたhacomono代表取締役CEOの蓮田健一(以下、蓮田)と、3位に輝いたmatsuri technologies代表取締役の吉田圭汰(以下、吉田)が登壇した。
hacomonoは、エンジニアだった蓮田が2013年に創業し、フィットネスや運動施設向けのオールインワン・マネジメントシステム「hacomono」を提供。ユーザーの入会手続きから予約、決済までをこのシステムで完結できる。導入実績は、全国で13,000店舗以上に上るという。
matsuri technologiesは、早稲田大学在学中に起業と売却を経験した吉田が16年に創業し、民泊や短期賃貸物件に特化した宿泊施設運営システムや集客プラットフォームを提供している。全国4,000室超を運営管理し、民泊運営では最大手だという。
モデレーターを務めたForbes JAPAN編集長の藤吉雅春からは、両者の事業における共通点として「単に綺麗なプロダクトを提供するだけでなく、リアルの現場オペレーションにまで深くコミットしている点」が挙げられた。
では、二人はなぜそこまで現場に向き合うようになったのか。蓮田は、偶然だと打ち明ける。
「16年頃からニューヨークや上海の店舗でキャッシュレスを目の当たりにしてかっこいいと思い、最初はモバイルオーダーシステムをつくっていました。飲食やエステなどさまざまな業界に提供してみたのですが、いちばん親和性が高かったのがフィットネスクラブだったんです」
それが発展して現在のシステムが構築されたという。一方、吉田は、1社目の起業の経験から今のビジネスにたどりついたという。
「21歳で起業した最初の会社では、ニュースをまとめるキュレーションアプリを手がけていましたが、IPOを目指せる規模まで成長させることができず、最終的に売却しました。その経験から痛感したのは、頭のよさだけで勝負する世界には、自分より優秀な人が数多くいるという現実でした。であれば、自分は優秀なエンジニアばかりが集まる市場ではなく、泥臭い課題が残っている業界で勝負したい。『ファウンダー・マーケット・フィット(起業家の熱量や原体験が市場の特性と深く適合している状態)』にこだわり、誰もやりたがらない難しい課題に粘り強く向き合いたいと思ったのです」
その情熱を注いだ先が、新興産業の民泊だった。創業した16年は、訪日外国人観光客が急増し、民泊が普及しはじめた頃だった。有象無象の事業者が参入したため、課題だらけだったことに吉田は着目し、その解決を事業の柱とした。
「例えば、お客さまがマンションの一室にある宿泊先にたどりつけないことは日常茶飯事でしたし、ゴミ出しもよく問題になっていました。こうしたオペレーションの積み重ねがなければこの事業は継続できないのに、実際には不動産事業の延長で参入した人が多く、それができていない。そこで私たちがテクノロジーを使った管理に加え、オペレーションまでをやることにしたんです。今では、月に10,000回くらい部屋の清掃を行っています」
蓮田も「ファウンダー・マーケット・フィット」に共感し、自身の経営哲学を述べた。
「私は事業を立ち上げる際、事業拡大をあえて狙いませんでした。大切なのは、1,000人に好かれることよりも、1人の熱狂的なファンをつくること。我々のビジネスはBtoBですが、常に『BtoBtoC』の視点でエンドユーザーの顧客体験(UX)を滑らかにすることを目指してきました。クライアント企業からの要望を受けるだけでなく、エンドユーザーが『今までになく使いやすい』と感じる圧倒的な体験をつくる。それによってクライアントにも評価されるし、サービスが広がっていくと考えたのです」
重要なのは「原理原則」と「調和」

生成AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、あらゆる前提が覆る時代が訪れている。そうした激変する現代において、一過性のブームで終わる事業と、この先10年生き残り続ける事業には、どういった違いがあるのだろうか。
京セラの創業者・稲盛和夫が主宰していた「盛和塾」に参加した経験をもつ蓮田は、氏に学んだ「原理原則にしたがう」ことの重要性を訴える。
「テクノロジーやトレンドがどう変わろうとも、原理原則や経営哲学は変えるべきではありません。我々で言えば、『運動する人を増やす』や『運動しやすい街をつくる』というエンドユーザーへの価値提供が軸にあり、AIなどの最新技術はあくまでそれを実現するための手段。その軸さえブレなければ、時代が変わっても事業は残り続けるはずです」
対して吉田は、事業が10年続くために必要な要素として「調和」を掲げた。
「民泊やシェアリングエコノミーのようなイノベーションは、既存の産業や地域社会に摩擦を生むことがあります。これからの10年は、利用者と地域社会がどう『調和』をつくっていけるかが重要になります。そこで現在、我々が取り組んでいるのは、宿泊する外国人ゲストに祭りや町会の清掃をするクリーンキャンペーンなどに参加してもらい、地域の方々と直接触れ合ってもらうことです。神輿を担いで涙を流して喜ぶゲストの姿を見ることで、地域社会にとっても『来てくれてよかった』と思える関係性が生まれます。世の中にはインバウンドに反感を覚える人もいますが、これからますます人口減少が加速する日本において、社会とのバランスをとりながら外貨を獲得していくことは、極めて重要だと考えます」
最後にセッションの締めくくりとして、会場に詰めかけた起業家たちに向けて両氏からメッセージが送られた。
「経営には自分でコントロールできることと、できないことがあります。だからこそ大切なのは『どんな世の中にしたいか』というビジョンです。ビジョンがあれば仲間がワクワクして働けますし、顧客や業界、家族までも巻き込んだロマンあるビジネスがつくれる。自分もそうしていきたいですし、それが日本に広まっていってほしいです」(蓮田)
「皆さんが優れた事業を創出してこの国をなんとかしないと、次の世代に負債を残すことになります。日本人は真面目で約束を守りますし、世界的に見ても非常に優秀です。言葉ができなくても『野心』さえあれば、AIがサポートして世界で戦える時代が来ています。ぜひ皆さん、次の10年を一緒につくっていきましょう」(吉田)
二人の話に共通していたのは、プロダクトだけではなく、人や現場との接点まで設計することで体験価値を生み出している点だった。それは、ビジネスエアポートが目指すシェアオフィスのあり方とも重なる。同オフィスを運営するライフ&ワークデザインマーケティング本部本部長の置鮎佳典が言う。
「私たちは単に働く場所を提供するのではなく、大切なのは『体験価値』を提供することだと考えています。では、シェアオフィスにおける体験価値とは何か。それは、私たちが掲げるコンセプトである『飛躍』を実現することです。どうしたらビジネスの飛躍に導いていけるかを考えながらサービスやソリューションをご提供し、日々、オペレーションに取り組んでいます」
ビジネスエアポートでは、事業を成功に導くべく、このように起業家同士がつながるためのイベントや施策を常に行っている。
この日のトークセッション後には、ネットワーキングイベントを実施し、登壇者と参加者たちが事業への情熱や野心について熱く語り合った。この日生まれた出会いが、次の10年を担う事業へと育っていくかもしれない。

はすだ・けんいち◎hacomono代表取締役CEO。青山学院大学を卒業後、IT企業の開発責任者を経て、家業の介護事業を再建、2013年にまちいろ(現・hacomono)を設立。
よしだ・けいた◎matsuri technologies代表取締役。早稲田大学在学中の2013年にSPWTECHを設立。女性向けキュレーションアプリなどを手がけ、21歳で事業を売却。16年にmatsuri technologiesを設立。



