不確実な世界で勝っている人は、何を見て、どう決断するのか。米大統領選の予測で知られる統計学者で、ポーカープレイヤーでもあるネイト・シルバーは、ポーカー大会、ウォール街、シリコンバレー、AIまで、分析的で競争心旺盛な人々が集う広大な生態系を「リバー」と名づけた。
『世界は「賭け」で動いている──期待値で未来を読むリスクテイカーたちの思考法』(ネイト・シルバー著、濱野大道訳、光文社刊
『世界は「賭け」で動いている──期待値で未来を読むリスクテイカーたちの思考法』(濱野大道訳、光文社刊)は、その住民たちの思考と行動を追い、彼らの強さを生む発想と、その裏側に潜む過信や暴走の危うさまで描き出した一冊。本稿では、その一部を抜粋・編集してお届けする。
「フォーブス400」億万長者たちの多くは世襲ではない
こんな驚くべき統計がある(最初に知ったときに私はびっくりした)。2023年のフォーブス400リストに選ばれたアメリカでもっとも裕福な億万長者400人のうち、70%が世襲ではないほぼ「叩き上げ」の実業家だという。さらに、59%は上位中流階級かそれ以下の家庭の出だった。この現象は、富の分布の右裾に近づくほど顕著になる。アメリカの大富豪の上位10人は、全員が「叩き上げ」と分類されている。
この割合は、以前よりも大幅に高くなっている。1982年のフォーブス400では、みずから事業を始めた起業家はわずか40%で、半分以上はたんに財産を相続した御曹司だった。では、世襲の富は減り、新興の富が増えたのだろうか?
注意しておきたいのは、これはアメリカ全体における社会的流動性の高さを示すものではないという点だ。実際、経済学者ラジ・チェティーの緻密な分析などによると、米国全体の所得と富の流動性は1世代前に比べて減少している。とはいえフォーブス400に載るのは、富の分布の極端な右裾に属する人々にすぎない。そこに到達するには、おそらく過剰なほどリスクの高い賭け―すでに裕福であれば、あえて挑戦しようとしない賭け―に成功する必要があるにちがいない。
たとえば、あなたが18歳の誕生日に2500万ドルの信託基金を相続したとしよう。あなたはそれを元手に事業を始めるだろうか?
もちろん、きちんと働くべきだという考え方もある。でも、年に100万ドルずつ取り崩して暮らし、世界じゅうを旅してまわり、派手なパーティーを開き、残りをS&P500のインデックスファンドに投資して年7%の利回りを得るほうがずっと簡単だ。65歳になるまでに資産は2億5000万ドルに増え、くわえて膨大な量の航空会社のマイルも貯まる。まさに最高の人生。あなたは絵に描いたような大金持ちだが、フォーブス400のリストにはかすりもしない。最下位の400位でさえ、ランクインするには30億ドル程度の資産が必要になる。




