政治の世界の多くの人々は、私の予測に対してこんな反応をあらわにした。「ネイト・シルバーは完全なドあほ!」。しかし私の観点からすると──くわえて、序章で取り上げた手練れの賭博師や同じような考えを持つ人々が集まるリバーの世界の人々の観点からすると—それはとんでもなく良い予測だった。良い予測だった理由は単純。もし予測のとおりに賭けたら、あなたは大儲けしていたはずだ。統計モデルがトランプ勝利の確率を29%、ブックメーカー市場が17%と予測したら、トランプに賭けるというのが正しい賭け方となる。それも、大金を賭けたほうがいい。この場合、トランプに100ドル賭けるごとに74ドルの利益が期待できる。
念のため言っておくと、私はクリントンに投票した。多くの人が、どのように投票すべきかを嬉々として論じようとする。しかし私の仕事は、レースの勝敗の賭け率を決めることであり、どのように賭けるべきかを示すことだ。あるいは少なくとも、確率を冷静に評価するのが私の役目となる。リバー用語を使うとすれば、私の予測は+EV(positive expectedvalue、正の期待値)となる。EV(期待値)とは、長期的に見た場合に平均して得られる結果のこと。たとえばこの例では、EVはつぎのように計算される。
(0.71×-$100)+(0.29×+$500)=+$74
71%の確率でクリントンが勝利し、あなたは100ドルの賭け金を失うことになる。しかし29%の確率でトランプが勝ち、5対1のオッズで払い戻された場合、100ドルの投資が500ドルの利益に変わる。これは悪くない結果だ。いや、すばらしい結果だ。スポーツ賭博の賭け手の多くは、それぞれの賭けに対して2〜5%の期待利益を得られれば満足する。株式市場では、インフレ率調整後で年率およそ8%の期待利益が理想とされる。この例でトランプに賭けた場合、投資した1ドルにつき74%の利益を期待できることになる。


