アメリカを代表するブランド、コーチは進化し続け、常に若い世代の心を掴んでいる。
彼らの心をとらえるのは、自分らしく生きるためのエモーショナルなクリエイションであった。
“Gen Z”という言葉をご存じだろうか。これは“Generation Z”の略であり、日本では“Z世代”と呼ばれる、主に1990年代中盤から2010年代前半に生まれた世代を指す。現在は10代後半から30代前半であるこの世代を中心に、グローバルな規模で高い支持を得ているのがコーチだ。インターネットやスマートフォンが当たり前な環境で育った、史上初のデジタルネイティブである彼らは、ネットを駆使してあらゆる商品の比較・検討もお手のものである。
そんな彼らに選ばれる理由は何なのか。コーチ ジャパン/ノースアジアの社長を務めるエマヌエル・リュエランに聞いた。
自分らしさを手助けする存在
「コーチは1941年、6名の職人によってアメリカ・ニューヨークにて創立されました。美しく巧みであり、品質にこだわる高度なクラフトマンシップを備えたクリエイティブな職人でしたが、伝統的でありながら、世代を超えたインクルーシブで実用的な革製品をアフォーダブルな(手の届きやすい)価格帯で提供したいという信念をもっていました。そんな私たちが現在掲げているブランドパーパス(存在意義)こそが“Courage to Be Real(リアルに生きる勇気)”です」
まずはコーチについて、リュエランはこのように語る。85年前に創業者が抱いていた“アフォーダブル”という信念。数多のラグジュアリーブランドがひしめき合う現代において、その信念はより際立った存在感がある。それはZ世代を中心とした現在の成功にも直結しているといえるだろう。そしてさらに彼らを引きつけているのが、そのブランドパーパスとそこから生み出されるプロダクトなのである。
「“Courage to Be Real”という言葉には、人間は自分らしさを隠す必要などなく、外に向かって表現していいし、いろいろな自分があっていい。自分がどういう人間なのか、自信をもって表現することが大切というメッセージを込めています。私たちはブランドを通し、そのお手伝いをしたいのです。
また従来ラグジュアリーとはステイタスシンボルでしたが、コーチにとってのラグジュアリーとは、何より自分らしくいることであると思っています。そしてそのために打ち出したのが、“Expressive Luxury(自己表現をする人に自信をもってもらえるような新しい価値)”というブランドフィロソフィーなのです」
ステイタスシンボルが他者に向けてアピールするものであるのに対し、コーチが目指す自分らしさを表現するものとは、いわば自分の内面に訴えかけるもの。感情を揺さぶり、自分らしくリアルに生きる勇気を支えてくれるものなのだ。だからこそコーチのプロダクトは、単にシンボリックなだけはなく、自分を体現できる豊かな表現力を備えているのである。では、そんなブランドイメージを打ち出すべく、コーチはどんな戦略で市場に臨んでいるのだろうか。
「私たちの戦略には、現在3つの柱があります。1つめはカスタマーに対し、エモーショナルなつながりを常に心がけること。2つめはイノベーションを意識すること。それは自己表現を促すものであり、プロダクトにも必要なことです。そして3つめはエキサイティングであること。人々を惹き込むエンゲージメントを備えたブランドでありたいのです。そのために進めているのが“オムニチャネル”です。オンライン、オフライン問わず、あらゆるチャネルでブランドの魅力を表現したいと思っています」
次代を担う世代への提案
人々の嗜好の多様化やグローバル市場での競争激化など、現在のリテールマーケットは混迷を極めている。そんな不透明な市場においてリュエランは挑戦的とも言えるほど、多角的な戦略を打ち出している。
「コーチは歴史のあるブランドですが、現代に適したブランディングを行うことが非常に大切です。それもすべての世代に向けて行うべきですが、近年特に力を入れているのがZ世代へのアプローチです。彼らがどんな価値観をもち、どんな人生を送っているのか。どんなファッションを好み、どんなライフスタイルを目指しているのか。それらを継続的に研究しており、彼らと直接対話する機会なども設けています。
そんなZ世代へのアプローチの一環として、現在展開中なのが“Explore Your Story(あなたの物語を描こう)”というグローバルキャンペーン。アメリカからは俳優のエル・ファニング、韓国はガールズグループ『アイドゥル』のソヨン、そして日本はシンガーソングライターの幾田りらを起用しています」
こうしたZ世代を軸とした戦略を象徴するのが、2024年若者が集う原宿にオープンした「コーチ プレイ@キャットストリート」である。世界初の体験型コンセプトストアである同店からは、コーチにとって日本がどんな存在であるかがうかがえるのだ。
「日本とは40年近い関係があり、マーケットとしても大きな存在です。それだけでなく、日本のカスタマーは非常に洗練されており、何よりコーチを心から愛していただいています。そしてその愛は、私達にインスピレーションを与え、クリエイションやほかの国の店舗づくりに素晴らしい影響を与えてくれるのです。そういった意味でも、日本は私達にとって特別であり、カスタマーと感情的につながることでイノベーションを起こす場所でもあるのです」
若者が集う日本の街から得たインスピレーション、そしてエモーションを世界へと発信するコーチ。そのクリエイションは人々の感情をつなぎ、リアルに生きるための勇気を与えてくれるに違いない。
コーチ・カスタマーサービス・ジャパン
https://japan.coach.com
エマヌエル・リュエラン◎ジュリークやクラランス・グループ、ロレアルなどの著名コスメティックブランドのアジア支社で要職を歴任した後に、2016年コーチを運営するタペストリーに入社。コーチのサウスイーストアジア&オセアニアのジェネラルマネジャーとして、同地域における成長に貢献。2019年にはバイスプレジデント兼ジェネラルマネジャーに昇進。現在はコーチ ジャパン/ノースアジアのプレジデントとして、東京を拠点に韓国を含む、ノースアジア地域の戦略的リーダーシップと事業推進を行っている。



