過去10年の大半において、不動産管理会社と、彼らにサービスを提供するテクノロジー企業の関係は単純なものだった。不動産管理会社(オペレーター)が建物を運営し、ベンダーは運営を容易にするためのツールを販売していた。両者は供給者と顧客であり、時にはパートナーでもあった。
その関係が崩れつつある。不動産管理会社は自社のテクノロジー供給業者との競争を強めており、自社でテクノロジーを構築することが解決策だと決断する大手オペレーターが増えている。双方が同じ賞品、すなわち「オペレーティングレイヤー(運営層)」の支配権を目指して競い合っている。そして双方とも、間違った方向へ走っている。
「オペレーティングレイヤー」が意味するもの
オペレーティングレイヤーとは、賃貸台帳や総勘定元帳を管理する不動産管理システム(PMS)のような記録システム(システム・オブ・レコード)のことではない。その上に位置するものだ。それは、見込み客が入居者になるプロセス、賃料の回収方法と未払い時の対応、メンテナンスの実施方法、退去から次の入居までの原状回復、チームの人員配置、そしてこれらすべてを入居者がどのように体験するかといった、日々の物件運営を実際に動かしているワークフローと意思決定を指す。
これはビジネスの運営モデルであり、価値が創造されるか、あるいは破壊されるかの分岐点となる。歴史的には管理会社の内部に存在していたが、いまやオペレーティングレイヤーは争奪の対象となっている。
支配を目論むテクノロジー企業
ベンダーはこのレイヤーの支配を望んでおり、最も野心的な企業はもはや「ツール」を売り込んではいない。彼らは「建物」そのものを売り込んでいる。EliseAI(エリーズAI)は、賃貸契約向けのチャットボットとしてスタートしたが、現在では入居者のライフサイクル全体にわたるコミュニケーションと運営を自動化しており、全米の賃貸アパートの8分の1で導入されている。同社は2025年に2億5000万ドル(約398億円)を調達し、その発信メッセージは「AIアシスタント」から「労働力としてのAIエージェントの参画」へと移行した。
その意味するところは明白だ。ソフトウェアが行うことが増えれば増えるほど、現地に必要な人員は減る。Bilt(ビルト)も、家賃リワードプログラムから、同社の「Resident Loyalty 2.0」プラットフォームを通じて、賃貸契約の意思決定、フリーレントなどの優遇措置(コンセッション)、入居者エンゲージメントの領域へと進出している。
既存の大手企業でさえ、この流れに傾いている。2026年3月、Entrata(エントラータ)は業界初をうたう「エージェント型」PMSを発表し、その後、「自律型プロパティマネジメントの未来を定義する」ためのOpenAIとの協業を発表した。
売り文句はもはや「当社のツールは、あなたの管理担当者がXをより速く行うのを支援する」ではない。いまや「X、Y、Zを行うのに、もはや不動産管理担当者は必要ない」なのだ。
自社構築を目指すオペレーター
オペレーター側はこの売り文句を聞き、当然の結論に至った。テクノロジーがオペレーティングレイヤーを支配するのであれば、自分たちがそのテクノロジーを所有すべきだ、と。そのため、最大手クラスの企業は社内にAIチームを立ち上げ、ソフトウェアをレンタルする代わりに独自のプラットフォームを自社構築している。ソフトウェア開発のコストは劇的に低下しており、オペレーターは最も重要な資産である「データ」と「専門知識」を握っている。運営会社内部での問いは、「これを利用すべきか?」から「これを自社で構築すべきか?」へと変化している。
間違ったレースを走る両者
しかし、双方はより大きな機会を見落としている。彼らはオペレーティングレイヤーの所有権を巡って争っているが、本来問い直すべきは、そのレイヤー自体がそもそも優れているかどうかだ。双方が実際に提案しているのは、地域的な組織構造、後付けのソフトウェア、そして何十もの孤立したツールを調整せざるを得ない現場チームを特徴とする、規模の拡大を目指した時代のモデル「PM 2.0」の自動化にすぎない。自律型の建物を目指す売り込みは、そのモデルが基本的に正しく、単に人間を排除すればよいという前提に立っているようだ。一方、自社構築を目指す主張は、コードこそが決定的要因であり、実現手段であると考えている。どちらも正しくない。最初から一つのシステムとして設計されていないモデルを自動化することはできない。ただ断片化が加速するだけだ。
両陣営が無視しているいくつかの現実がある。自動化は優れた人材の価値を高めるものであり、それを消し去るものではない。高級ホテルにはモバイルチェックインがあるが、それでも顧客の名前を覚えている人間のコンシェルジュを配置し、そのサービスに対して料金を課している。人間の存在や配慮は付加価値(プレミアム)になるのであって、犠牲になるわけではない。また、ベンダーがその未来を実装するためにはオペレーターの存在が必要であり、これは顧客に対して「顧客自身の存在感を縮小させるモデル」を採用するよう説得することを意味する。顧客と競合することは、誰にとってもコストがかかる。
答え:異なるアプローチをとる企業
その解決策には、これまでとは異なる性質の企業が必要となる。私はこれについて以前、運営、データ、テクノロジーが単一のシステムとして設計され、当初から「テックネイティブ」として構築された管理会社「PM 3.0」として執筆した。その重心はコードではなく、運営の専門知識にある。
AIが安価になり、テクノロジーがコモディティ化するなかで、希少な資産となるのは建物の運営方法に関する知識であり、ソフトウェアに学習させるための実際の運営環境である。PM 3.0企業は、純粋なソフトウェアベンダーが持たない専門知識を備えており、自社のチームが必要とする特定のツールを構築するためのリソースを擁している。提供するプロダクトは、テクノロジーではなく、優れた運営そのものだ。
本当に問われているもの
これらは決して容易なことではない。私が目にする最大の誤解は、AIの導入をテクノロジーのプロジェクトとして扱っていることだ。実際には、それは「組織変革」のプロジェクトである。当社の場合は、テック部門ではなく人事チームを通じてAIを展開している。制約要因となるのはAIモデル自体ではなく、現地の現場チームがシステムを十分に信頼し、働き方を変えることができるかどうかに他ならないからだ。もう一つの障壁はデータである。
AIが使いものになる前に、すべてのシステムとデータを一元管理し、そこに関連する背景情報(文脈)を追加する必要がある。それができなければ、混沌としたデータの上で有用なモデルを学習させることはできない。その結果、よくある失敗パターンに陥ることになる。すなわち、強力なプラットフォームを購入・導入したものの、機能のほんの一部しか稼働していないという状態だ。したがって、リーダーの仕事はツールを導入する前に始まる。現場での実務プロセスを再設計し、スタッフがどこに時間を費やし、何が彼らのエネルギーを奪っているかを把握したうえで、その業務をサポートするためにテクノロジーを導入すべきだ。
さらに、このアプローチはすべてのオペレーターにとっての正解ではない。現在、二つの道が開かれつつある。一つは、人員を削減し、経費を厳しく管理し、既製品の優れたツールを導入して効率的に運営するという、低コストの実行力で競う道だ。もう一つは、体験とパフォーマンスで競う道である。
テックネイティブな企業を構築することが理にかなうのは、競合相手を理解している場合に限られる。学習し規模を拡大するためには、資金と実際の運営環境が必要だ。そうしたデータの厚みを持たない小規模なサードパーティの管理会社は、自らソフトウェア企業になろうとすべきではない。その場合の正しい行動は、パートナーシップを結ぶことだ。私が懸念するもう一つのポジションは中間層である。すなわち、コモディティ化した料金でプレミアムサービスを提供し、コストを正当化できるほどの規模がない自社開発プラットフォームを抱えているような状態だ。
結び
顧客と競合することによって失うものは多く、パートナーとして業界を再定義することによって得られるものは極めて大きい。未来の建物は優れたテクノロジーによって稼働するが、それを運営するのは、より価値のある仕事に従事する人間であると私は確信している。
本当の問いは、誰がオペレーティングレイヤーを所有するのかでは決してなかった。誰がそれを、共に再構築する意志を持っているかということだ。



