「クラウドストレージは、ファイルの置き場所をもう一つ与えてくれました。けれども、手元にあるかのような感覚をもたらしてはくれませんでした」とアオは付け加える。「私たちは、ファイルシステムそのものをローカルドライブのようにふるまわせています。しかも、それが分散している。だからこそ、あらゆる端末、あらゆるチームメイト、あらゆるエージェントが、必要になったその瞬間に同じデータへ手を伸ばせるのです。こうしてコンピューターは、ファイルを収める入れ物ではなく、ファイルをのぞく窓になります」。
アオが「エージェント」という言葉を使った点は重要だ。Spaceが賭けているのは、自律的に動くAI(エージェンティックAI)の流れが加速するにつれ、エージェントもまた、クラウドとのデータのやり取りを待つ人間と同じ問題に苦しみ始める、という見立てである。そうなれば、エージェンティックAIがもたらすはずの生産性向上や価値創出は、大きく足を引っ張られることになる。だとすれば、Spaceの解決策の価値はいっそう高まる。
プレシードラウンドをリードしたa16z Speedrunのゼネラルパートナー、ジョナサン・ライも、その見立ては鋭いと考えている。「マット、アリ、ジェイソンの3人は、AIを前提とした新しいタイプのファイルシステムをつくろうとしています。人間のクリエイターにもAIエージェントにも、必要なデータへ即座にアクセスできるという同じ基本機能(primitive。より大きな仕組みを組み立てるための最小単位)を提供するものです」と彼は言う。「コンピューティングで最も古くからある前提の一つに、ファイルは手元の端末に存在していなければ扱えない、というものがあります。Spaceはそれを覆そうとしているのです」
この構想には、同じラウンドに参加するGolden VenturesとNorthside Venturesも賛同している。さらに、Parsec、Stan、Superwhisper、Modem、Sentryといったソフトウェア企業出身の12人ほどのエンジェル投資家も名を連ねる。調達した資金は、エンジニアの新規採用を含む技術開発の強化に充てるという。同社はまず、有料利用者1万人という当面の目標を掲げている。
もっとも、この市場をSpaceが独占しているわけではない。これまでに200万ドル(約3億1900万円)を調達したカナダのSpacedriveや、同じサンフランシスコに拠点を置きY Combinatorの支援を受けるByteportといったライバルも、ファイルの共有とアクセスという課題に独自の解決策を探っている。
とはいえ、この市場に挑む新興勢にとって好都合な事情がある。クラウドストレージ企業にせよ、老舗のファイル共有サービスにせよ、テック業界の大手はいまのところ、この領域で自前の製品を開発していないのだ。その理由の一つとしてジャオが挙げるのは、Spaceのようなストリーミング型の技術が実用に耐えるだけの通信速度が、ようやく最近になって得られるようになったという点である。
商機は非常に大きい。Mordor Intelligenceの調査によれば、クラウドストレージ市場の規模は今年およそ1800億ドル(約28兆7000億円)にのぼる。しかも年20%を超える成長が見込まれ、2031年には5000億ドル(約79兆8000億円)を上回るという。バプナは、そうした世界ではファイルへのアクセスがこれまで以上に重要になり、無限のコンピューターという発想が中心に躍り出ると主張する。
「ストレージの未来は、1ギガバイトを最も安く預かった者のものにはなりません」と彼は言う。「人やエージェントが手を伸ばしたその瞬間にデータを使えるようにした者のものになります」


