ベンチマークの比較の根底には、より本質的な問題が存在する。現在、世界中で「米国製」と「中国製」という2つの異なるインテリジェンスのレイヤーが構築されており、それぞれが訓練プロセスにおいて埋め込まれた独自の価値観や世界観を反映している。
多くの開発者が中国製のオープンモデルをベースに開発を行うようになれば、米国のレイヤーではなく中国のレイヤーが普及することになる。そして、オープンな派生モデルが作られるたびに、そのエコシステムへとフィードバックされ、その影響力が拡大していく。どちらのインテリジェンスレイヤーがデフォルトの基盤(基質)になるかが、世界中のその上に構築されるあらゆるものの姿を決定づけるのだ。
これは、突如として現れた現象ではない。中国の研究者による論文は長年にわたり、世界のAI論文発表数で大きなシェアを占めてきた。また、現在中国の研究所を率いる人々の多くは、米国の大学やAI企業で学び、あるいは働いていた。このパターンは、単なる「追いつき追い越せ」というよりも「頭脳循環(ブレインサーキュレーション)」と捉えるべきものであり、最近の米国の移民政策がそれを加速させている。
クラウドと推論:米国にとって最も深い堀、そして中国によるその回避策
モデル単体では十分ではない。インテリジェンスは大規模に提供(サービス提供)されなければならず、この提供プロセスである「推論レイヤー」は、訓練プロセスよりも膨大かつ永続的な計算資源を必要とする。このレイヤーは依然として、圧倒的に米国が支配している。Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudに加え、CoreWeaveなどの新興の推論特化型プロバイダーやネオクラウドが、世界のインフラを独占している。中国国外で利用される中国製オープンモデルの多くは、米国のクラウドインフラ上で運用されている。
これは15年以上にわたって構築された強固な「堀」であり、中国はグローバル市場において、これに比肩する基盤をまだ全く構築できていない。この「堀」は維持されているだけでなく、さらに強固になっている。
2026年6月30日締めの四半期において、AWSの売上高は2021年以降で最も速いペースとなる36.8%の伸びを記録し、Azureは43%増、Google Cloudは82%増の248億ドル(約3兆9600億円)に達した。ハイパースケーラーが構築できる能力を上回るペースでAI需要が拡大しているため、これら3社は同時に急成長を遂げている。世界中で採用されているすべての中国製オープンモデルも、どこかで稼働しなければならず、その場所はますます米国のクラウドへとシフトしている。中国はモデルレイヤーをコモディティ化している一方で、その足元にある米国のインフラレイヤーの優位性を強化してしまっているのかもしれない。


