この普及が進む一方で、米国のオープンウェイト陣営は層が薄くなっている。メタの「Muse Spark 1.1」は、かつてのオープンな「Llama」の系譜とは異なり、クローズドソースモデルとなっており、OpenAIやAnthropic、xAIと直接競合している。エヌビディアの「Nemotron」モデルは米国発の純粋なオープンウェイトモデルだが、それらは既存のベースモデルの微調整(ファインチューニング)や蒸留(ディスティレーション)が中心であり、最先端モデルをゼロから構築したものではない。中国は事実上、世界におけるオープンウェイトモデルのデフォルトの選択肢になりつつある。
米国でよく見られる言説は、中国製のモデルのほとんどは米国の最先端モデルを蒸留してコピーしたものであり、「盗まれた知能」をパッケージし直したにすぎないというものだ。この言説は、大部分において不当であると思うが、完全に間違っているわけでもない。最先端モデルからの産業規模での蒸留は実際に存在しており、軽視されるべきではない。
これに対する最大の反証が、DeepSeekがリリースした「R1」だ。これは、既存の方策最適化研究を踏まえつつ、強力な推論動作には従来の教師ありアプローチが不要であることを大規模に実証した深層強化学習手法「GRPO(グループ相対方策最適化)」を普及させた。米国の研究所もその後、この研究をベースに開発を推進している。また、中国の研究所は単に完成品を配布するだけでなく、モデルウェイトとともに完全な訓練手法も公開している。これは、米国自身が何十年にもわたって研究上の優位性を築く基礎となったオープンな貢献そのものである。
ここでもう1つ、明確に指摘しておくべき重要な対論がある。米国の研究所も、制作者の許可を得ることなく、人間が執筆した文章や画像、コードなどの膨大なコレクションを用いて最先端モデルを訓練してきた。海賊版書籍の学習をめぐるAnthropicの15億ドル(約2390億円)の和解金支払いは、米国側でもこれとまったく同じ「無断抽出」の問題が生じていることを示す具体的な一例である。
Webスクレイピングされた人間のデータを用いた学習、海賊版ソースからのデータ取得、および他社のモデル出力をその利用規約に違反して蒸留することは、法的には同一の行為ではない。しかし、それらは共通の政治的問題を抱えている。すなわち、双方が、自国のモデルに利益をもたらす「抽出」は「イノベーション」と呼び、ライバルに利益をもたらす場合は「窃盗」と呼ぶ傾向があるということだ。法的な差異を混同しないようにしつつも、このダブルスタンダード(二重基準)は明確に指摘しておく価値がある。


