2026年版の世界長者番付は、目を引くデータを示している。番付に名を連ねるビリオネアは過去最多の3428人となり、その保有資産の合計は20.1兆ドル(約3200兆円)に達した。1年で4兆ドル(約637兆円)増えたことになる。少なくとも86人のビリオネアは、主に人工知能(AI)によって財を築いた。彼らの資産総額は約2.9兆ドル(約462兆円)に上り、そのうち45人は過去12カ月だけで10億ドル(約1590億円)の大台を超えた。
問うべきは、AIにおけるその富が具体的にどこで生まれているのか、そしてそれが今後の資本の動きに何を意味するのかである。
価値は企業が上場する前に形成されている
AIセクターは2025年第1四半期、世界のベンチャーキャピタル投資の約53%を獲得した。当時としては、AI向け資金調達として過去最高の四半期だった。2025年8月までに、評価額が10億ドル(約1590億円)を超える未上場企業であるAIユニコーンは約498社に上り、その合計価値は2.7兆ドル(約430兆円)に達していた。
ただ、これらの企業に見られるパターンは、構造的な理由から過去のテクノロジーサイクルとは異なる。企業が以前よりはるかに長く未上場のままでいるようになっているからだ。近年、上場するテクノロジー企業の創業からの年数の中央値はおよそ12〜14年で、ドットコムブームのピーク時の4年とは対照的だ。Amazonが創業からわずか3年後の1997年に上場した際、その評価額は約4億3800万ドル(約697億円)で、成長ストーリーはまだこれからだった。今日のAI企業は未上場のまま、その何倍もの規模に達している。つまり、価値曲線の最も急な部分は、ますますIPO前に取り込まれるようになっている。
AIスタックには3つの層があり、それぞれ経済性が異なる
Red Lions Capitalでは、AI産業を3つの層で捉えている。第1の層はインフラで、大規模AIを可能にするチップ、データセンター、コンピュートプラットフォームである。第2の層は基盤モデルで、消費者向けおよび企業向けAI製品の多くを支える大規模言語モデルだ。第3の層は応用AIで、ヘルスケア、コーディング、顧客サービスなど特定産業にAIを導入するソフトウェアやツールを指す。
それぞれの層には、固有の経済性、競争環境、リスクプロファイルがある。インフラ層だけでも規模は大きい。データセンターとクラウドコンピューティングで使われるAIチップ市場は、2030年までに4000億ドル(約63兆7000億円)を超えると予測されている。
次のフロンティアは「物理世界」
しかし、最も重要な変化は、そのスタックの外側で起きている。現在のAIは主にデジタル経済に奉仕しているが、それは経済全体の産出の一部にすぎない。製造業だけで世界の国内総生産(GDP)の約15%を占め、物流はさらに約10%を占める。これらのセクターにおけるAI導入はまだ初期段階にある。
当社の調査が示すフィジカルAIの中核的な価値提案は、コストのかかる現実世界での実験をシミュレーションに置き換えることにある。何百万ものシナリオを並行してモデリングすることで、効率的な設計を見いだし、新たな材料の組み合わせを浮かび上がらせ、生産プロセスを最適化できる。これにより、コストを削減し、開発サイクルを短縮し、工場の歩留まりを高めることが可能になる。
資本はすでにこの方向へと回転し始めている。ロボティクス向けのベンチャー投資は2025年に約140億ドル(約2兆2300億円)に達し、2024年比で70%増加した。このフロンティアは、注目すべき転向者も引き寄せている。ジェフ・ベゾスは、工学、製造、医薬品設計などの物理的タスク向けAIモデルを構築するスタートアップ、Prometheusの共同CEOとして新たな事業運営上の役割を担っている。この水準の資本と人材が新たな層へ向かうとき、それは通常、次の価値創造サイクルがどこに集中するかを示す初期シグナルである。
要点
人工知能によって生み出される価値のうち、未上場市場で形成される比率が高まっている。そして、その価値創造のフロンティアはデジタル世界から物理世界へと移りつつある。この10年に資本市場を進むすべての人にとって、実践すべき規律は3つある。
1. AIへの配分は層ごとに評価する。インフラ、モデル、アプリケーションは経済性もリスクも大きく異なるからだ。
2. 未上場市場の動向、すなわち資金調達ラウンド、新規参入者、人材の動きを読み解く。
3. そして、次の価値創造サイクルが集中する可能性が高い物理層に注目する。



