ジビエのエコシステムを構築
“前衛的地方料理”と表されるレヴォの代名詞、ジビエも同様だ。薬で有名な富山では、乾燥させて数十万円で売れる「胆嚢」を求めて、熊を撃つ風習があった。その肉をわけてもらうことがあったが、あまりの肉の硬さに興味をもつことはなかったという。
しかしその後、猟に連れられて見た現実に呆然とした。「撃って、腹を開いて、捨ててくる。それを間近で見て、もったいない。なんて自分勝手だと思いました」。同時に、もしおいしくできたら自分たちの武器になる、と考えた。
そのためには処理が肝心だ。「撃ってすぐにもってきてください、と猟師さんに言ったら反発されました。彼らは500m以上離れて撃つし、ツキノワグマは100kg以上もある。山道をどう急いで運ぶのかと。ジビエが市場に広まらないのは運搬の問題が大きいんです」と谷口。それでも方法を考え、現在は3人のハンターと契約。撃ったすべてを買い取っている。
「いらないときもありますが、いいとこ取りをしない。それに、数を捌くからわかることもあります」。この仕組みで、猟師たちに毎年平均して1000万円以上を支払っている。
オーベルジュに移転してからは、もう一段おいしくしようと、大きな熟成室をつくった。試行錯誤を繰り返し、今は約1〜2カ月、皮付きのまま熟成させている。取材に訪れた日、その部屋には、熊以外にウリ坊もいた。「猪、鹿、鴨、キジ……ハクビシンもおいしいですよ」。昼と夜のレストラン営業に加え、宿泊者への朝食もある。その提供機会が、このエコシステムを支えている。
レストランを最優先に
流行りや常識にとらわれることなく、地域に根ざして自由に料理をしたいと、自然豊かな利賀村を選んだ。オーベルジュにしたのは、修業したブルゴーニュの「ルレ・ベルナール・ロワゾー」の影響だ。ドライブインだったところから三つ星を取り、ホテルを建て、わざわざ人が足を運ぶ目的地になった。「そういうストーリーがある場所が日本にも増えたらいいなと。それに、おいしいものを食べて飲んで、楽しいまま寝られるのが最高じゃないですか」。
宿泊施設は3室。かつてそこにあった古民家の格子戸や箪笥を取り入れた、モダンなコテージだ。宿泊予約は数カ月先まで埋まっている。人気を考えれば拡大も順当に思えるが、谷口は「レストランが第一。そのスタッフでオペレーションを回せるのが最適な規模感」と明言する。
現在はキッチンに10人、サービスに4人。ほぼ全員が村に住む。料理人は求人をせずとも常に応募があるが、サービス職で村へ引っ越してくるハードルは高く、採用に課題を感じている。


