今、日本の地域に世界の目が向いている。インバウンドの関心はより深く、広く、文化的背景にまで及んでいる。一方、現場ではオーバーツーリズム、担い手不足といった課題が深刻さを増している。
求められるのは、観光産業の「質的転換」だ。数や低価格を競う"消費される観光"から、地域固有の体験を軸に、経済と文化が"循環する観光"へ。「体験がデスティネーションになる」という考え方が鍵となる。
Forbes JAPANは今年、J-CATを共催に迎え、新たなアワード「Destinations of the Year」を創設。工芸、食、自然、風習——各地で新たな観光価値を創造する30の事業者を選出し、審査項目に沿って5つの取り組みをピックアップした。この記事では、最も象徴的なデスティネーション「THE ICON」に選ばれたレヴォ(L'évo)を紹介する。
そこは、もともと春に山菜を採りにくる場所だった。富山市街から車で走ること90分、山道を抜け、見過ごしそうな小道を入った先に、オーベルジュ「レヴォ(L'évo)」はある。冬は屋根の高さまで雪が積もる豪雪地帯だ。
「1年目は雪の洗礼を受けました。慣れない重機でなんとか道を切り拓いて。それから年々、山の経験値が上がって、自分たちも料理もたくましくなっています」。オーナーシェフの谷口英司は笑顔で話す。
生産者と作家と育てた、富山の料理
現在の場所へ移転したのは約5年前。その前5年は、富山市内でレストラン レヴォとして営業していた。富山に移住したのは、さらにその5年前。ホテルのシェフに抜擢されての移住だった。出身は大阪、フランスで修行し、帰国後は神戸で働いていた。
今でこそ多くの料理人が畑や海へ生産者を訪れるが、富山に来たばかりのころはまだ珍しく、谷口自身も、数年して始めて畑を訪ねた。「食材は知っていても、つくり方やつくり手の思いはまったく知らず。知れば知るほど楽しくなりました」。生産者だけでなく、工芸作家や職人まで、そこから少しずつつながりが広がっていった。それでもレヴォのオープン当初、「富山の食材を使った料理」と言いながら、地産でできるのは60%ぐらいだったという。
それが今は95%にもなる。素材の質も上がっている。こんな野菜が欲しい、とリクエストしているわけではない。生産者が自ら食べに来て、味わって、すると翌年、もっと出来が良くなっているという。それに応じて料理も変わってきた。「素材の力が弱かったころは、自分の腕で100%、200%にしようと力んでいましたが、素材を生かすためにテクニックを控えることも増えました」。この1年で、敷地内にハーブを育てる菜園もつくった。
作家とのコミュニケーションでも、作家性を重んじて、あれこれオーダーは出さない。「たまに、どうやって使うんだ、というお皿もありますが、逆にアイデアをもらっています」と笑う。



