仏紙『Le Monde』によるアルノー家をめぐる全6回の連載は、この問いを公の場に押し出した。アルノー自身は強く反論し、子どもたちの間にドラマ『Succession(メディア王 〜華麗なる一族〜)』(編集部注:巨大メディア企業の経営者とその4人の子どもたちを描く米国のコメディードラマ)さながらの対立があるとの見方を、タブロイド的な空想として退けた。
緊張の本質は構造的な問題であり、LVMHはその問題が最も目に見えるかたちで現れている例にすぎない。これは、世界的コングロマリットから、第2世代への承継を準備する地域企業まで、あらゆる規模のファミリービジネスで起きる問題だ。
創業者の盲点
リーダーシップの承継は不安定性の高い時期だが、同族所有企業にとってはとりわけそうである。ケンブリッジ・ジャッジ・ビジネススクールのフェローで、同族経営支援に関する非営利団体「Family Firm Institute」の理事、Zateon Consultingのパートナーでもあるパニッコス・プーツィオウリス教授は、ファミリー企業と幅広く協働してきた。
同氏によれば、ファミリービジネスのほぼ70%は、創業者から第2世代のリーダーシップへ移行すると、家族の支配下で存続できなくなるという。同氏はさらに、この時期が計画上の内在的な弱点を際立たせる理由を説明する。
「創業者はしばしば、事業の存続と成長に注力する一方で、所有構造や家族関係の変化を軽視する」とプーツィオウリスは説明する。「正式なガバナンス、独立した監督、戦略的な多角化がなければ、ファミリービジネスは所有の分断、対立、競争力の低下に対して脆弱になる」
LVMHほどの規模の企業にとって、全面的な崩壊がリスクというわけではない。しかし、根底にある力学は同じだ。帝国を築いたリーダーシップとガバナンスの構造は、世代をまたぐ承継を生き延びるようには設計されていない。
アルノー自身の台頭が、そのことを物語っている。彼は父を説得し、家業をエンジニアリングから不動産へ転換させた。その後1971年、投資銀行のラザール・フレールの支援を受けてラグジュアリー分野に進出し、フィナンシエール・アガッシュ(アルノー一族の統括持株会社)を取得。1984年には、経営危機にあった繊維企業のBoussac Saint-Frèresを象徴的な1フランで買い取った。そして同社の事業を、残す価値があると判断した2つの資産、すなわちChristian DiorとLe Bon Marchéに絞り込んだ。
それから16年後、同事業は19億ドル(現在の価値で約3030億円)の売上高に対し、1億1200万ドル(同、約179億円)の利益を上げていた。


