筆者の取材に応じた米シラキュース大学のブライアン・テーラー博士は次のように説明した。「ロシア国民は概して戦争に疲れており、終結を望んでいる。2022年に始まったウクライナ侵攻が、既に第二次世界大戦中のナチスドイツとの『大祖国戦争』より長く続いていることを国民は認識している。とはいえ、現在の戦争に疲弊しているからと言って、ロシア人がどんな犠牲を払ってでも平和を望んでいる、あるいは戦争に反対するというわけではない」
ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターが3月に実施した調査によると、調査対象となったロシア人の67%が、ウクライナとの和平交渉が必要だと考えていることが分かった。一方、ウクライナ侵攻を継続すべきだと答えた回答者はわずか24%にとどまった。
それでもなお、戦闘は続いている。一部の専門家は、新たな動員が実施されるとしたら、追加の部隊はウクライナ東部ドンバス地方での作戦に投入されると予測している。ロシア英字紙モスクワ・タイムズは、ドネツィク州とルハンシク州から成るドンバス地方の掌握を目指すプーチン大統領の意向は変わっていないと報じた。英ロイター通信の推定によると、ロシアは既に同地方の9割以上を占領している。
先述のダニエリ副所長は次のように述べた。「プーチン大統領が動員を決断するとすれば、それは戦況を有利に運べると見込んでいるからだろう。同大統領は、ドネツィク州とルハンシク州の全域を掌握したいと繰り返し表明してきた。だが、これらの地域でのロシアの進軍はここ数年、非常に遅々としており、莫大な犠牲を伴っている。ロシア軍はこれまで、目標達成のために可能な限り多くの兵士を戦闘に投入し続ける『肉挽き機』戦術を用いてきた。クレムリンは動員によってこれらの地域を最終的に制圧できると考えているかもしれないが、戦場の実態を見る限り、その可能性は低いようだ」
テーラー博士も、プーチン大統領がウクライナ侵攻を続ける決意を固めているとみている。同博士は、ロシアはこれまで甚大な損害を被ってきたにもかかわらず、プーチン大統領の目標は依然としてドンバス地方を掌握することにあると指摘した。しかしその一方で、「ロシア軍の新たな増派があったとしても、戦況が大きく変わる可能性は低いだろう」との見方を示した。
とはいえ、同国で再び動員が実施されるのか、そうだとすればいつ実施されるのかは不透明だ。だが、今年に入ってロシア軍の死傷者は増加しており、経済も逼迫(ひっぱく)し始めていることは明らかだ。こうした状況が、動員を巡るロシア政府の決定にどのような影響を与えるのかは、今後の展開を見守っていく必要がある。


