OpenSea共同創業者のアタラが、1年でOpenRouterを創業
アタラは、NFTマーケットプレイスのOpenSeaを共同創業した人物だ。OpenSeaは4億ドル(約636億円)超を調達しながら、市場が反転すると利用が崩れ落ちていくのを見ることになった。アタラは2022年7月にOpenSeaを退き、1年とたたずにOpenRouterを立ち上げた。勢いを失った会社から歩き去って4年、2社目にあたるOpenRouterを売却したと報じられている。現在、下降局面の只中にいる創業者は、この時系列を研究しておくべきだ。崩れ去った時点からうまくいった時点までの距離は、AIによって以前より短くなっている。
2067億円と評価されたOpenRouterを、Stripeは1兆円超で買う
OpenRouterは5月、アルファベット傘下のCapitalGが主導するシリーズBで1億1300万ドル(約180億円)を調達した。このとき付いた企業価値は13億ドル(約2067億円)と伝えられている。それから約90日後に報じられた売却額は、その13億ドル(約2067億円)の5.4倍にあたる70億ドル(約1兆1130億円)超だ。AIインフラの価値は投資家が値付けできる速度を超えて積み上がっている。その証拠だと読む向きは多いはずだ。これはバブルの一部だと言う者もいるだろう。ウォール・ストリート・ジャーナルは7月の時点で、交渉価格として100億ドル(約1兆5900億円)近い数字が取り沙汰されていると報じており、着地するまでに価格は下がったことになる。
Stripeが買うのはデータで、手本は決済カード2社にある
Stripeが何を買おうとしているかは、決済業界の先例を見れば分かる。ビザとマスターカードは、資金を動かすだけの会社ではない。両社の決済網を通る買い物は、その場で記録に残る。企業が決算を発表する数週間前に、政府が統計を出す数カ月前に、消費がどこで起きているかを両社は見ている。エコノミストやヘッジファンドが金を払ってこの取引データを買うのは、そのためだ。データは経済の先を読む。
Stripeは使用量の計測と、通信の振り分けを両方持つ
StripeはすでにOpenRouterの請求処理を担ってきた。この買収が成立すれば、AIワークロードをめぐる使用量の計測と振り分けを、Stripeが両方とも握ることになる。握る対象には、どのAIモデルがどの仕事を勝ち取るか、価格が動いたときに通信がどれだけ速く移るかまで含まれる。きわめて価値あるデータだ。データを握る企業は、それだけ高い値で買われる。他の誰もがリーダーボードやアナリスト予測を材料にAI市場を論じる間、Stripeだけがその市場をリアルタイムで見られるようになる。
Stripeが最も得をする一手が、OpenRouterの価値を壊す可能性
Stripeにとって引っかかりかねない点が1つあると私は見ている。
OpenRouterが機能しているのは、振り分けは中立だと開発者が信じているからだ。開発者側は、提供元をどの順番で使うか、価格上限をいくらに置くか、どこを除外するか、データをどれだけ保持するかを自分で決められる。振り分けに商業的な偏りが見えた瞬間、開発者は各AIモデルへ直接つなぐ方式へ移ってしまえる。
罠はここにある。このデータを手にした所有者にとって最も魅力的な一手は、優遇先へ通信を誘導することであり、データをモデル学習に使うことでもある。そして、その同じ一手が、買い取った資産を壊しうる。Stripeは信頼に対して割増分を払う。その信頼こそ、壊れかねない唯一のものだ。
アタラは4年をかけてAI版のStripeを築いた。今度は本家Stripeが、その信頼にどれほどの価値があるかを知る番だ。私たちもStripeとともに、AI経済のうちどれだけがOpenRouterを通っているかを知ることになる。


