クリエイターとまず組んで成果を測り、買収するかを決める
HubSpotがクリエイターと継続的に組む仕組みは、社内でクリエイタープログラムと呼ばれる。この仕組みは、買収を決める前に相手を試す装置としても働く。あるクリエイターとまず単発で組み、次に3カ月、6カ月、1年と契約期間を延ばしていく。HubSpotは、その提携が成約に近い見込み客を生んでいるか、そして見込み客がソフトウェアの継続課金収入へ変わるかを見ている。「当社が実施する買収は、クリエイタープログラムから生まれることが多い」とハントは語った。
ハントが判定の基準として挙げたのは、提携から生まれた需要が継続的な売上へどこまで結びつくかである。本人の言葉ではこうなる。「クリエイターが生み出せる確度の高い需要について、月を追うごとに安定した投資対効果が見え続け、さらにその需要が購買プロセスの後半で高いASPや非常に良好なMRRへ転じる力を示すなら、それはもっと深く踏み込む余地があるかもしれないという合図になる」。
ASPは平均販売単価、MRRは月間経常収益を指す。前者は顧客1件あたりの契約額を、後者は毎月入り続ける売上を表す。HubSpotは再生数やクリック数の先を見ている。クリエイターが、解約せずに残る顧客を連れてこられるかどうかを問うている。
商業上の関係を先に結んでおけば、企業は視聴者との相性、仕事の進め方が合うかどうか、視聴者が実際に顧客へ転じる割合、クリエイターが安定して成果を出し続けられるかを確かめられる。買収して所有すれば、支出も評判も大きなリスクを背負う。そのリスクを引き受ける前に試せる点に意味がある。
AIの使い方を学ぶ視聴者が、HubSpotの顧客になっていく
戦略的な狙いを持つ買い手が見ている価値は、メディア企業の広告収支には現れない。
HubSpot Mediaが2026年2月に買収したStarter Storyは、パット・ウォールズが2017年に立ち上げた起業家向けメディアで、年間1億人以上に届いている。Starter Storyが読者を得るのは、起業家が自社を動かすソフトウェアを選び始める、まさにその時期だ。Futurepediaが届く相手は、AIツールの使い方を学ぼうとする人々である。どちらの読者層も、HubSpotが顧客にしたい相手と大きく重なる。
従来型メディアの採算は、広告・購読料・物販に依存する。HubSpotは、同じ注目をソフトウェアの売上へ直接つなげられる。クリエイターの動画には、説明欄などを使い、扱う話題に関連した実用的な資料を無料ダウンロードとして置ける。視聴者は資料を受け取るために連絡先を差し出し、やがてHubSpotの顧客になるかもしれない。
この仕組みがあるため、同じメディア資産でも、HubSpotにとっての価値は他社にとっての価値と異なってくる。メディア企業が買い手なら、ニュースレターを利益額と照らして値踏みする。HubSpotは、メディア収入・自社で広告を出さずに済んだ費用、成約に近い見込み客、そして見込み客が顧客へ転じた後に契約期間を通じて生む売上の総額まで合わせて量れる。しかも、視聴者が業務用ソフトの購入をまったく考えていない時間帯にも、その視聴者が日々触れる情報の中へ入り込める。
クリエイターに払われる米国の広告費は、2026年に約7兆円へ
業界全体の支出動向も、同じ方向を示している。米デジタル広告業界団体であるインタラクティブ広告協議会(IAB)がPwCに委託して実施した調査によれば、米国でクリエイター広告に投じられた費用は2025年に370億ドル(約5兆8830億円)へ達した。2026年には440億ドル(約6兆9960億円)に伸びる見通しだ。この440億ドルは広告に使われる費用であり、買収に投じられる額ではない。それでも、企業の資金がすでにどれほどクリエイターとの関係を通って流れているかを示す数字だ。IABが2026年1月に公表した別の報告書は、この分野には企業のメディア計画へ全面的に組み込むために必要な測定基準と財務面の厳密さが、依然として欠けていると警告した。
所有は、契約では手当てできない何かを足さなければならない。恒久的に使える配信経路、独占的に持てる知的財産、その分野への素早い参入である。長期の提携のほうがたいてい安く済み、解消もしやすい。だからこそ、買い切りに踏み切る基準は、現状よりも高く置かれるべきだ。


