AIが情報を集め、資料をつくり、次の作業へ進む。これまで同僚への相談や確認、仕事の受け渡しを通じて進めていた業務が、人とのやり取りを挟まずに進む場面も増えつつある。仕事は、これまで以上に速く、滑らかに進むようになるだろう。では、その過程で生まれてきた、人と人との接点はどこに残るのだろうか。
これまで職場では、会議の前後に交わす雑談や、隣の席での何気ない相談、一緒に移動する時間など、一見すると非効率な場面が、互いを知る機会になっていた。相手が何を大切にし、どのような状況に置かれているのかを知り、困ったときに声をかけられる関係が、そうした時間のなかで少しずつ育まれてきた。
もちろん、AIが人間関係をなくすわけではない。煩雑な仕事から解放されることで、むしろ人と向き合う時間を増やすこともできる。しかし、効率化によって生まれた余白をさらに多くの仕事で埋め、仕事のプロセスから人との接点だけを取り除いていけば、関係性を築く機会は静かに失われていく。
人を介さずに仕事が進むほど、組織は本当に強くなるのだろうか。
だからこそ今、関係性を自然に生まれるものではなく、意図的につくり、維持し、必要なときには修復するものとして捉え直す議論が、ソーシャルイノベーションの領域で広がっている。その新たな視点の一つが、SSIRで発表され、注目を集めた「リレーショナル・インテリジェンス」、RQ(関係性知性)である。
IQやEQだけでは捉えられないもの
これまで、優れた人材やリーダーの能力は、主に個人の内側にあるものとして捉えられてきた。20世紀に重視されたのは、IQ(知能指数)に象徴される知識、論理、分析、問題解決の力である。その後、論理や知識だけでは人や組織は動かないことが認識され、EQ(感情知性)が注目されるようになった。自分や他者の感情を理解し、共感し、チームを動かす力である。
RQは、IQやEQに代わる「次の知性」ではない。端的に言えば、IQは答えを出す力であり、EQは感情を理解する力である。それに対してRQが問うのは、異なる答えや感情を持つ人々が、それでも共に前へ進めるかということだ。RQが目を向けるのは、一人ひとりの内側に蓄えられた能力だけではない。人と人の「あいだ」で、信頼や協力、共有された意味を生み出す力である。
もちろん、関係性の重要性そのものは新しい話ではない。ビジネスの世界にも、長期的な付き合いから得た情報を融資判断に生かすリレーショナル・バンキングなど、関係性を価値の源泉として捉える考え方は以前から存在してきた。
RQの特徴は、関係性を情報収集や取引の手段にとどめず、人や組織が学び、変化し、異なる立場を越えて成果を生み出すための基盤として捉える点にある。従来の関係性重視が、「誰とつながっているか」「相手をどれだけ知っているか」に力点を置くものだとすれば、RQが問うのは、その関係のなかで異論や失敗を語れるか、力の差を扱えるか、壊れた信頼を修復できるかである。
RQは個人の能力として語られることが多い。しかし、関係性は一人だけではつくれない。RQを考えることは、その力が発揮される組織や制度の条件を考えることでもある。
RQは「人当たりのよさ」ではない
RQと聞くと、誰とでも仲よくできる人や、コミュニケーションの上手な人を思い浮かべるかもしれない。しかし、RQが意味するのは、単なる社交性ではない。相手の背景を理解し、立場や価値観の違いを扱う。意見が対立しても関係を切らず、対話を続ける。互いに傷つけ合ったときには関係を修復し、異なる人々が共に意味や解決策をつくっていく。RQの高い人とは、対立を生まない人ではない。対立や緊張が生じても、違いを抱えたまま関係を維持し、必要に応じて修復できる人である。



