2022年に『Molecular Biology and Evolution』に掲載された、上記の研究チームによる研究論文では、こうした生息環境から、ニキビダニが、寄生生物から絶対共生体へと移行しつつある、と結論づけている。これは、宿主への依存度が極めて高く、自他の区別がほとんど意味をなさない生物に近づいているということだ。
この結論は、シーケンシング解析の対象となった単一のゲノムを根拠としており、定説として定着したわけではないが、ニキビダニの進化の方向性は十分に明確に示されていると言える。
ニキビダニは、大半のヒトには何の害も及ぼさないが、これまでは確かなエビデンスの裏付けもないままに、多くの肌トラブルの原因として名指しされてきた。とはいえ、2017年に『Journal of the American Academy of Dermatology』に掲載されたメタ分析では、顔ダニの生息密度の高さと、酒さ(頬や鼻の周辺に赤みが出る皮膚疾患)の発症とのあいだに関連性があることが指摘されている。
その3:ぎょう虫
ぎょう虫(学名:Enterobius vermicularis)は、米国では最も一般的な寄生虫だ。この寄生虫症を発症するのは学齢期の子どもであることが圧倒的に多く、1世帯で2人以上が同時に感染するケースもよくある。
夜になると、メスの成虫がヒトの腸から体外に出てきて、肛門周囲の皮膚に卵を産み付ける。これによってかゆみが生じ、その部分を掻くことによって、宿主の指や爪に卵が付着し、そこから、口腔や寝具、衣服に付着して何週間もそこで生息することがある。
ここで生物学的に注目すべきは、極めてシンプルなぎょう虫のライフサイクルだ。中間宿主もなく、成熟するまで温かい土壌の中で一定期間を過ごすこともない。寄生虫の多くは、こうした中間宿主や土壌を必要とするために、実質的に特定の環境や衛生状態に閉じ込められている。
だが、ぎょう虫は違う。室内で、ヒトからヒトへと移動することが可能だ。それが、温暖な気候の経済的に豊かな国で、回虫などの土壌伝播性の寄生虫が駆逐されてからかなり経っても、ぎょう虫感染がなくならない原因となっている。
ぎょう虫感染後の症状は通常、軽症ないし無症状で、容易に駆虫が可能だが、家族の誰かに感染者がいると、再感染率が非常に高くなることで悪名高い。
「寄生生物」という言葉には、永久的に変えられない絶対的な分類であるかのような響きがある。しかし、それは違う。宿主を死に至らしめるほどの搾取から、ただ乗り、真の意味でのパートナーシップまで、その実態は幅広い。さらに、それぞれの生物の立ち位置も、進化のなかで変わっていく。この記事で取り上げたニキビダニは、まさに今、そうした変化の途上にあるのかもしれないのだ。


