ヒトの体は、他の生物のすみかでもある。温かく、湿っていて、栄養が豊富で、他に類を見ないほど安定した環境──これだけの条件が揃っていれば、確かに移り住んでくる価値はあるだろう。そういうわけで、この人体というすみかには、さまざまな寄生生物たちが定住している。
細菌に関しては、この事実をすでに受け入れている人が大半だろう。腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のおかげで、体内に細菌がすんでいることについては良いイメージが定着している。
しかし、ヒトの体内にすむことを前提とした構造を持つ生物は、細菌だけではない。細菌よりもはるかに複雑で、その行動様式が「ミニチュア版の動物」に近い単細胞の寄生生物も、同じように生息している。さらには、もっと本格的な動物もすんでいる。こちらは、ダニや寄生虫といった、脚や内臓、独自のライフサイクルを持つ生物だ。
これらの生き物が、宿主となるヒトにすみ着くのは、そのヒトが病気や不衛生だからではないし、運が悪かったからでもない。健康なヒトの体にも、寄生生物は普通に存在する。そのため、大半の成人が関心を持つべき疑問は、「自分の体内には他の生き物がすんでいるか?」ではなく、むしろ「何がすんでいるか?」ということになる。
以下では、ヒトの体に寄生する最も一般的な3つの生物をピックアップし、それぞれの生態を通して、他の生物に寄生する生物の実態を紹介しよう。
その1:トキソプラズマ
トキソプラズマ(学名:Toxoplasma gondii)は、生存に奇妙な条件がつく、単細胞の寄生生物だ。ほぼすべての恒温動物の体内で生きていけるが、生殖サイクルは、ネコ科の動物の体内でしか完遂できない。そのため、ネコ以外の動物(家畜や齧歯類、私たちヒトを含む)はすべて、トキソプラズマにとって通過点(中間宿主)にすぎない。
トキソプラズマは、中間宿主の体内では、休眠状態のシスト(嚢子)として、筋肉や脳の組織に留まる。そして、宿主の免疫系が健全な状態にある場合は、基本的に定着した先でそのまま一生を終える。
ヒトの感染率は、居住している地域や食生活によって大幅に異なる。米疾病予防管理センター(CDC)の推計では、6歳以上の米国居住者では11%前後が感染している。一方、米国以外の国では、全体の60%を超えるケースもある。



