ただ、日本は最近、ロシアに接近する姿勢を見せ始めていた。経済産業省と外務省の幹部が5月26日と27日、ロシア政府関係者や経済団体の関係者らと面会。7月にはマニラで、日ロ外相が5年ぶりに接触した。高市早苗首相は「安倍政権の継承」をうたっている。これに伴い、日本の大手商社が出資するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の継続に強い意欲を示す経済産業省の影響力が強まっているとの見方が、日本政府内で出ていた。
テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームズ・ブラウン教授は、プーチン氏が敢えて北方領土訪問に踏み切ったことについて「プーチンは近く行われる下院(ドゥーマ)選挙を意識している。ウクライナを支援し、北大西洋条約機構(NATO)との協力に対して日本を罰したいという思惑もあっただろう」と語る。
そのうえでブラウン氏は「訪問はプーチンの誤算だと思う。高市政権が試みている限定的な対ロ関係の再構築を台無しにする恐れがあるからだ」と語る。ウクライナ戦争が終わっても、ロシアによる侵略を警戒するNATO諸国との関係改善は望めない。ロシアにとって、日本や韓国などとの関係改善は必要な戦略だった。逆にいえば、「プーチンは目先の選挙にこだわっている。中長期的な戦略を立てられないほど、余裕がなくなっているのかもしれない」(日本政府関係者)。
高市首相は13日、プーチン氏の北方領土訪問について「日本国内の対ロ感情を一層厳しくし、中長期的な関係回復を困難にしたと言わざるを得ません。ロシア側においては、このことの重大さを深刻に受け止めてほしい」と語った。
ブラウン氏は「もっとも、私は(日本政府によるロシアへの)再関与自体が誤った判断だと考えているので、(日ロ関係の悪化は)必ずしも悪いことではない」と語る。プーチン氏が、日本政府の「迷走」を止めた格好になった。「財源がない」という批判を浴びている「食料品の消費税1%への引き下げ方針」といい、中長期的な戦略がないのは、ロシアだけではないのかもしれない。


