AI時代が到来し、多くの企業が本格的な活用を進めている。導入による効果をどう数的指標で可視化するかに関心が高まるが、経済学者のジョシュア・ガンズは「時期尚早」と一蹴する。
「今、人工知能(AI)を使って何ができるか? この点に注力すべきだ」
AIに詳しい経済学者、ジョシュア・ガンズ教授は日本企業に、こう熱く呼びかける。AIは実験段階にあり、将来のリターンを案ずるよりも、まずは「この好機を見逃すな」というわけだ。
同教授は、カナダのトロント大学ロットマン経営大学院でイノベーションや技術革新、経営戦略などを研究。同大学院「クリエイティブ・ディストラクション・ラボ(創造的破壊研究所)」のチーフエコノミストでもある。
ここ数年、AI関連の論文を次々と発表。『予測マシンの世紀─AIが駆動する新たな経済─』『AI経済の勝者』(ともに、アジェイ・アグラワル、アヴィ・ゴールドファーブ共著、小坂恵理訳、早川書房)などの共著もある。
企業は成長のために、どうAIを活用すべきか? ガンズ教授に話を聞いた。
──『予測マシンの世紀』の原著出版から8年。今や自律的なAIエージェントやフィジカルAIなど、AIは予測機能をはるかに超えているように見えます。
ジョシュア・ガンズ(以下、ガンズ):今もAIの核心は「予測」と予測コストの低下にある。言葉を予測する大規模言語モデル(LLM)や、それを基にした生成AIの登場で、予測コストは大きく下がった。
予測コストの低下で、人間の役割は、AIの予測を基に下す意思決定へとシフトするといわれる。だが、重要なのは、完璧な予測は不可能であり、常に誤りが生じるという点だ。AIが不完全だからこそ、人間の判断が必要になる。
──効率化に加え、AIによる業務構造の再構築が必要だという声もあります。
ガンズ:AIの恩恵は既存の業務フローでも得られる。メリットが大きく着手しやすいため、積極的にやるべきだ。既存の業務構造内にも課題は山積している。
一方、業務フローの再構築は、まだ方向性が明確でなく、実験段階にある。AIによる組織変革は難しい。AIの機能には、各社の事情に合わせた事業の構築という利点があり、汎用ソフトと違い、用途に合わせて最適化する必要があるからだ。
組織を真のAI体制へと再構築し、変革するには長い時間を要する。AIによる生産性向上を一部実感しつつも、変革や組織の再構築に至っていない企業は多い。
──企業の経営陣はAI戦略をIT部門に丸投げすべきではないそうですね。
ガンズ:IT部門の役割は、既存のIT環境や関連コストを管理し、AIが適切に機能するようにすることだ。しかし、AIは単なる技術ではなく、新たな業務プロセスの構築や従業員の職務の再定義、新製品の開発をもたらしうるものだ。
例えば、AIで個々の労働者の生産性が高まり、作業時間が大幅に短縮されても、空いた時間で新規業務をこなせば、総労働時間は変わらない。
一方、新規業務の成果が生産性の統計に反映されるまでには時間がかかる。同じ人件費で、はるかに多くの仕事をこなしても、増えた分の業務が適切に測定されなければ、数値には表れない。
現時点で、AIによる生産性向上を数値に求めるのは時期尚早だ。生産性の統計は小さな変化をとらえる一方で、大きな変化を覆い隠すことがある。



