──AIエージェント活用によるコスト増に苦労している企業もあります。
ガンズ:この問題も、判断は時期尚早だ。重要なのは、企業には選択肢があるということだ。つまり、十分なリターンが見込めれば、コストを負担できる。
厄介なのは、リターンがまだ不透明であることだ。支払いは即座に発生するが、リターンやメリットは、まだ見極めが必要な段階にある。企業はAI活用を実験や学習への投資としてとらえねばならない。コストはいずれ下がるだろう。
──企業は予測AIと生成AI、生成AIの進化版であるAIエージェントをどう駆使して成長を促進すべきですか。
ガンズ:生成AIやAIエージェントのみに注力しすぎると、従来型の「予測AI」がもつ大きな可能性を見落としてしまう。予測AIを使えば、より良い事業運営の方法や、より優れた製品の生産方式を学ぶことができる。
また、多くの企業は成長のためでなく、効率性を求めてAIを使うという指摘もあるが、成長と効率の問題はAIに限った話ではない。短期的な効率性向上と長期的成長のバランスをどう取るか。これこそが優れた経営の核心だ。
将来を案ずるな
──今年6月、米xAIを傘下に抱える米宇宙開発会社スペースXは、米ナスダック市場への大規模な新規株式公開(IPO)を行いました。AI大手のオープンAIやアンソロピックも後に続きそうです。
ガンズ:古くは鉄道の時代にまでさかのぼるが、新技術には投機的ブームが付きものだ。人々は早期の利益を期待して巨額投資を行うが、利益の実現には何十年もかかるため、暴落が起こる。
現在の金融情勢には、AIだけでなく多くの要因が影響を及ぼしている。とはいえ、AIブームが他分野から投資資金を吸い上げているのは確かだ。
──企業は時代の波にのまれることなく、AIの本質をどう捉えるべきですか。
ガンズ:カギになる言葉はふたつ。まず、「機会」だ。AIで、実現可能なことが大幅に増えた。もうひとつは「不確実性」だ。AIは大きな可能性を秘めているように見えるが、最大の価値は何か、そもそも価値の有無さえ不透明だ。経営陣は、AIをめぐる意思決定の難しさを覚悟すべきだ。
──AI導入では、ポイントソリューションでなく、システムソリューションに注力すべきだそうですね。
ガンズ:ポイントソリューションとは、AIで特定の業務の遂行能力を高めることだ。一方、システムソリューションは、はるかに手ごわい。AIで何ができるかを見極め、「業界を構築し直すとしたら、どうすべきか」を考えることだからだ。破壊的な変革はシステムソリューションでしか実現できない。
──日本企業にアドバイスを。
ガンズ:AIを大きな好機ととらえ、積極的に導入しよう。AIは強力な技術であり、多くのことができる。将来どうなるかを案ずるよりも、「今、AIを使って何ができるか」に注力すべきだ。そのためには、高額なコストを覚悟する必要がある。
一方、業界の動向を見守るという選択肢もある。それも悪くない戦略だが、その場合は、業界をリードする存在になれるなどとは思わないことだ。
ジョシュア・ガンズ◎トロント大学ロットマン経営大学院のジェフリー S. スコール記念講座教授。専門は技術革新とアントレプレナーシップ。クリエイティブ・ディストラクション・ラボのチーフエコノミスト。共著に『AI経済の勝者』『予測マシンの世紀─AIが駆動する新たな経済─』など。


