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2026.08.25 11:00

日本には、世界がまだ知らない一流がある J-CATが切り拓く、文化と経済の新循環

Forbes JAPANとともに、新たな地域体験を称える「Forbes JAPAN Destinations of the Year 2026」を共同創設したJ-CAT。なぜ今、新たな評価軸を社会に提示するのか。その狙いを探る。


日本には、時代を超えて受け継ぐべき知恵や技術、そして独自の精神性がある。「精神・美意識」「匠・技」「風土・自然」「暮らし・営み」「未発掘の地域資産」―J-CATはこの5つを日本の「光」と定義し、それらを持続可能なかたちで次世代へつないでいくという理念を経営の軸に据えている。

2019年の創業以来、J-CATはテクノロジーとクリエイティビティの力で、日本の魅力を世界へ届けてきた。その活動を通じて見えてきたのは、日本各地がもつ独自のポテンシャルと、その価値が本来に見合った経済価値として十分に評価されていないという現実だった。担い手不足や技術継承の難しさは、各地で深刻な課題となっている。だがJ-CATは、その危機の裏側にこそ大きな可能性があるとみる。本質的な価値が可視化され、本当に必要とする人へ届けば、日本は世界を魅了する新たな経済循環を生み出せる。そこに、J-CATが挑む市場づくりの核心がある。

利益の先にある共創のパートナーシップ

「日本が培ってきた資本主義の指標では測れない本質的な価値を、いかにして未来へつなぐか。ロマンと算盤の両軸を高めて経営していくことが、私の強い思いです」

代表取締役CEO/Founder 飯倉竜(以下、飯倉)は、事業の根底にある思想をそう語る。その原点のひとつに、書道家である母の姿がある。創作活動と経済的自立を両立させる難しさを身近で見てきた経験が、「つくり手が創作に集中し、正当な評価を得られる環境をつくる」というJ-CATの事業の軸につながっている。飯倉がとりわけ重視するのが、数値では測れない精神性だ。

「経済的な合理性だけでは説明できない地域に根付くさまざまな共同活動や日々の営みでも、人々が協力し、社会を支えている。市場では評価されにくいものですが、これは日本が培ってきた強みだと思っています」(飯倉)

執行役員/President牧野雄作(以下、牧野)は「私たちはストーリーテラー、仲介する表現者でありたい」と話す。J-CATが掲げる5つの「光」は、飯倉が重視する精神性をはじめ、風土や自然の喪失を憂うメンバー、暮らしの豊かさを大切にしたいメンバーなど、経営陣それぞれが守りたいものの公約数としてかたちになった。社内でも、「最も大切にしたい光は何か」を一人ひとりが考えることに重きを置いている。その答えは人によって異なるが、誰かひとりの価値観を共有するのではなく、多様な価値観を重ね合わせながら理念を育てている点にも同社らしさが表れている。

26年に新たに掲げたミッション「日本の“光”を未来へ繋ぐ。」は、こうした思想を事業として実装する意思表示でもある。同社が展開する国内向け体験予約サービス「Otonami(オトナミ)」やインバウンド向けサービス「Wabunka(ワブンカ)」で徹底されているのは、サプライヤーファーストの設計思想だ。体験を提供する工房や職人などの内発的動機を高め、無理なく続けられる仕組みをつくることを重視している。具体的には、集客からデジタル化、予約販売、PR、体験後のフォローまでを一貫してプラットフォーム化し、担い手が本来の仕事に集中できるよう運営の負担を引き受ける。

「私たちが事業者のもとへ足を運ぶとき、『集客できます』『儲かります』という営業はしません。日本の魅力をともに発信し、循環させ、未来へつなぐ仕組みをつくり上げる共創のパートナーとしてやっていきましょうと伝えています」(飯倉)

「Wabunka」では、完全プライベート制を採用。牧野は、その狙いを次のように話す。

「1回1組限定にすることで、サービスを提供する担い手との対話に圧倒的な深みが生まれます。例えば、これまで数百円の拝観料で公開されていた寺社での時間を、歴史や思想の背景まで理解できる体験へと再設計することで、10万円規模の体験プランとして内容に見合った高付加価値を提供しています」(牧野)

注目したいもうひとつの事例が、伝統的な「和火」を継承する花火職人との共創プログラムだ。花火を製作・打ち上げるだけでなく、和火に込められた技術や歴史を学ぶことが体験の醍醐味であり、職人自身がその思いを伝えている。これまで体験という価値提供をしてこなかった事業者に、1回あたり数十万円規模、年間ではさらに大きな規模の収益機会が生まれている。また、約360人の自社ガイドの存在も体験価値を支える重要な要素である。「言語を翻訳するというよりも、文化や思想を翻訳して言葉に変換することがガイドの役割」と位置づけ、感情知性(EQ)の高さを採用・育成の軸としている。

体験品質を属人的なものにしないため、テクノロジーを活用した改善サイクルも構築。ゲストから寄せられたアンケートは社内ですぐに共有され、迅速に改善へ取り組める体制を整えている。さらに、直感的に操作できるUI/UXを追求し、予約までの動線も継続的に磨いている。

「寄せられた声はサプライヤーにも共有します。ゲストからの感動の声が直接届くようになり、職人の方々の大きな励みや誇りにつながっています。地域が守ってきたものをリスペクトし、担い手の自負心を高められるような仕組みをつくる。それが私たちの役割だと考えています」(牧野)

体験で得た収益の一部は、寺社であれば建物の改修費に充てられることもある。さらに、体験後に工芸品や地域産品を購入する二次消費、三次消費が生まれ、J-CATが旅程全体を設計することで、宿泊や交通にも人の流れが広がっていく。体験を起点に、担い手への収益還元と地域経済の循環を同時に生み出している点が、このモデルの特徴だ。

飯倉が掲げる「ロマンと算盤」は、こうした文化と経済の循環を両立させる経営思想である。適切な収益が担い手へ還元されることで、技術や文化を未来へ受け継ぐ土台が築かれる。J-CATが目指しているのは、日本文化を守ることではなく、その価値が持続的に循環する仕組みをつくることにある。

代表取締役CEO/Founder 飯倉竜
代表取締役CEO/Founder 飯倉竜

「自己研鑽の旅」がつくる新しい市場

世界の旅行者が日本に求める価値の本質を、牧野は「自己研鑽」と表現する。同社が毎週実施しているゲストへのヒアリングから見えてきたのは、名所を巡る消費型観光とは異なるニーズだ。

「ゲストの目的は、観光地を巡ることから、自分自身と向き合う体験へと変化しています。メディテーションや禅に関心をもつ方が『Wabunka』へたどり着き、日本独自の精神性や風土に触れる体験を通じて新たな視点や気づきを得ることを求めている。大量消費型の観光ではなく、自己投資につながる体験への需要が高まっていると感じます」(牧野)

こうした傾向は、富裕層旅行者の間でさらに顕著になっているという。

「学びや教養といった知的価値を提供する体験への需要は拡大しています。特に、お子様の教育を目的としたエデュケーショナルトラベルへの関心は年々高まっています」(牧野)

その象徴が、1カ月の滞在期間中に30件以上のプランを体験し、1,000万円以上を投じた家族だ。また、アメリカから訪れたゲストが京都・宇治での坐禅体験に参加し、深い感銘を受けたことから、「住職に直接感謝の手紙を送りたい」と同社へ連絡したケースもあった。

「地方はもちろん、東京にも後世に残すべき技術や文化があります。釘を一本も使わずに家具をつくる江戸指物の職人が今なお仕事をしていたり、奥多摩エリアではわさびも収穫できる。AIで検索しても出てこない魅力が、日本にはまだまだ眠っています」(牧野)

J-CATはこれらの価値を体験として実装するうえで、大切にしていることがある。「体験プランには、なるべく『余白と奥行き』をもたせるようにしています。スケジュールを固めすぎず、何もない時間や、自分と向き合う時間があってもいい。過剰に飾りすぎず、本来の魅力を感じてもらえるよう、内面的な価値の提供にフォーカスしています」(牧野)

結果、一度の体験で終わることなく、茶道や能を本格的に学ぶために何度も日本を訪れる旅行者も現れている。なかには、能楽師に弟子入りするまでに至ったケースまであるという。こうしたリピーターとして地域とのかかわりを深める旅人は、観光地が直面する過剰な混雑へのひとつの解にもなりうる。飯倉は「観光の価値は、訪日客の数だけで測れるものではない」と語る。地方への分散や一人あたりの消費額、地域への還元まで含めて観光をとらえるべきだというのが飯倉の考えだ。

「良質な旅人がリピーターになれば、関心は自然と地方へ向かう。結果として、一部地域への過度な集中も和らいでいくと思います」(飯倉)

重要なのは、一人ひとりが地域との関係を深め、継続的に訪れる循環を生み出すこと。J-CATは、探求心をもつ旅行者と日本の「光」を結びつけることで、旅人と地域の双方に新たな価値を生み出している。その循環を持続可能なビジネスとして成立させている点に、同社の独自性がある。

執行役員/President牧野雄作
執行役員/President牧野雄作

未来の担い手を生む多角的な評価軸

適正な収益とゲストの納得感を両立させるJ-CATのモデルは、すでに一定の評価を得ている。同社は25年春に約11億円の資金調達を実施し、取り扱う体験コンテンツは「Otonami」と「Wabunka」合わせて約1,000件規模に達した。海外700社以上のトラベルデザイナーやコンシェルジュとのネットワークも構築している。

その一方で、同社は自社サービスだけでは実現できない領域にも向き合おうとしている。その取り組みのひとつが、地域固有の価値に光を当てる「Forbes JAPAN Destinations of the Year 2026」だ。

「成果報酬型のビジネスモデルでは、観光客がすでに訪れている地域に展開が偏りやすい。日本にはまだ観光地として認知されていない地域にも、未来へ継承すべき価値が数多くあります。そうした場所に光を当てるには、体験商品の開発や販売だけでは限界があると考えました」(飯倉)

審査基準には、「文化の進化性」「地域固有性」「循環型のビジネスモデル」「持続可能性」の4軸が設定された。牧野は、特に「文化の進化性」に注目する。

「時代に合わせて文化を守りつつ、新たなチャレンジに踏み出すには大きな勇気が必要です。大切なものを守りながら、独自の価値創造に挑む先駆者を称えたい」(牧野)

アワードでは優れた取り組みを表彰するだけでなく、地域の担い手が自らの技術や資産を新しい事業機会へと転換するきっかけをつくることも目指している。

「和火職人のように、自分たちがもつアセットを別の価値へ展開すれば、新たな収益機会を創出できます。そうした成功事例を示すことで、新たな挑戦に踏み出す担い手を増やしていきたいと考えています」(牧野)

さらに同社は、アワードを通じて見いだした先駆者たちをつなぎ、コミュニティへと育てていく構想も描いている。

「将来像として、エリアごとにアワードを開催することも見据えています。地域のキーマンたちが集い、ナレッジを共有しながらエリアの未来を議論する。日本が受け継いできた価値を未来へつないでいくために、皆で協力できるコミュニティをつくっていきたい」(飯倉)

J-CATは、文化体験の提供にとどまらず、宿泊や地域全体の魅力を組み合わせることで、日本各地に新たな旅の価値を創出。体験を起点に滞在や地域との接点を広げ、その土地ならではの魅力や暮らしに深く触れる旅をデザインしている。
J-CATは、文化体験の提供にとどまらず、宿泊や地域全体の魅力を組み合わせることで、日本各地に新たな旅の価値を創出。体験を起点に滞在や地域との接点を広げ、その土地ならではの魅力や暮らしに深く触れる旅をデザインしている。

体験の先にある100年構想

J-CATの視座は、体験の提供にとどまらず、地域の事業者が直面する構造的な課題の解決へと向かっている。まず動き出しているのが、体験という「点」を、地域という「面」へ広げる取り組みだ。例えば、ある地域で体験できる工芸や食、文化体験に、宿泊や交通を組み合わせ、ひとつの滞在プログラムとして提案する。そのために展開しているのが、地域で出会える人や風景、風土を映像や写真を用いて伝える「エリアブランディング」である。地域の魅力を視覚的に編集し、包括的に伝えることで、海外のトラベルデザイナーやコンシェルジュが顧客に提案しやすいかたちに整えている。

金沢を皮切りに、これまでにない体験と滞在を組み合わせたエリアプロデュースを展開。瀬戸内では、JR西日本と共同で、体験に宿泊・交通を組み合わせた滞在型の周遊プログラムを設計している。700社を超える海外のトラベルデザイナーやコンシェルジュとの関係をもつ同社にとって、個々の体験の蓄積は、地域全体を旅の目的地として提案するための土台になっている。

その先に飯倉は、資金と経営人材を地域へ循環させる新たな仕組みを構築しようとしている。地域事業者への資金供給にとどまらず、事業を担う人材まで送り込むことで、後継者不足という構造的な課題の解決を目指すという。構想の背景には、飯倉のキャリアがある。商社時代にはIT部署での新規事業の立ち上げや米シリコンバレーでのベンチャー投資、CVCファンドの設立を主導してきた。テクノロジーの事業化だけでなく、金融を通じた事業づくりにも携わってきた経験が、この発想につながっている。

「宿泊施設や酒蔵、神社仏閣、工芸の世界には、後継者がいなくて廃業するしかない事業者が少なくありません。一方で、総合商社やPEファンド、コンサルで腕を磨いた人材のなかには、地方で事業を起こしたいと考える人が存在します。今後は、自社がファンドを組成し、観光領域の実践知を提供することで、経営人材と地域事業者の橋渡しを担うエコシステムをつくりたいと考えています」(飯倉)

体験の流通から始まったJ-CATの事業は、価値の可視化、人材育成、金融へと領域を広げつつある。その構想が、日本の魅力を未来へつなぐ新たな仕組みへと発展していくのか。今後の展開に注目したい。

J-CAT
https://j-cat.co.jp/


いいくら・りゅう◎J-CAT 代表取締役CEO/Founder。2012年住友商事に入社。アメリカ・シリコンバレーに駐在し、ベンチャー投資などに従事。帰国後には、全社CVC・アクセラレーターなどの立ち上げを経験。2019年末、J-CATを創業。

まきの・ゆうさく◎J-CAT 執行役員/President。一休にて旅館予約や品質管理の責任者を務め、高級別荘予約サイトの立ち上げを牽引。2022年10月にJ-CATへ参画し、「Otonami」「Wabunka」の事業開発責任者、CSOを歴任後、現職に就任。

Promoted by J-CAT | photographs by Masahiro Okamura | text by Motoki Honma | edited by Aya Ohtou(CRAING)