酸化ストレスはかねてから、老化の主な要因だと考えられてきた。従来の説では、並外れて長生きする動物は、損傷を与える分子の生成数が少ないか、酸化を防ぐ力が強いはずだとされてきた。しかし、ニシオンデンザメはそうした説などお構いなしに、酸化による損傷を蓄積しているようだ。これは、同じく長寿で知られるハダカデバネズミの研究結果とも一致する。ハダカデバネズミもまた、驚くほど高い酸化ストレスを許容しているのだ。
この2つの動物はいずれも、長生きできるか否かは細胞を無傷に保つことにかかっているという考えに、疑問を投げかけている。むしろ、損傷とともに生き延びていくことに長けた種がいることを示唆しているのだ。
このことは、人間の健康寿命や抗老化研究にも大きな示唆を与える可能性がある。ヒトの心臓が年齢とともに硬化する一因は、線維化だ。すなわち、損傷したたんぱく質と、機能が低下したミトコンドリアが、時間とともに細胞に蓄積していくことだ。ならば、健康的に年を取っていく上での本当のカギは、そうしたプロセスを完全に排除するのではなく、むしろ、そうしたプロセスを経ても機能が壊滅的に低下する状況を防ぐことである可能性がある。老化すること自体は、そもそも問題ではないのかもしれない。
もちろん、大きな謎はいまだに残っている。たとえば、ニシオンデンザメの心臓がこのような変化を抱えながらも機能し続けている正確な理由は、いまだに不明だ。代謝の遅さや血圧の低さ、動きの鈍さが、心血管への負担を軽減しているのかもしれない。言うまでもなく、異常なほど柔らかい血管が、硬化した心筋の働きを助けている可能性もある。まだ見つかっていない分子の優れた仕組みが関係しているということもあり得る。
いずれにせよ、ニシオンデンザメが生息しているのは、地球上で最も研究が困難な環境に数えられる場所であり、その生態についてはほとんどわかっていない。そのため、新たな情報が得られたとしても、謎を解明しているというより、謎の巨大さを思い知らされている感じだ。
とはいえ、今回の最新研究結果は、老化と機能低下が必ずしもイコールではないことを示唆している。これは、実に胸躍る発見だ。私たちヒトにとって「年を取る」ことは、避けられない衰退のプロセスとして語られることが多いからだ。しかし、必ずしもそうではないことをニシオンデンザメは教えている。
400歳超えのニシオンデンザメは、まだまだ現役の年齢なのだ。


