アレクサンダー・グローブスと村上あずさにとって、テクノロジーは決してそれだけで終わるものではない。それは、奇跡の瞬間を生み出す目には見えない触媒だ。日英のアーティスト・デュオ、「A.A.Murakami」として葉山を拠点に活動するふたりは、「Ephemeral Tech(儚いテクノロジー)」と名付けた手法によって、国際的に高い評価を得ている。
この手法は、独自に開発したテクノロジーを用いることにより、デジタルなイリュージョンではなく物理的現象を生み出すというものだ。スクリーンやプロジェクションを使用するのではなく、泡(バブル)や靄(もや)、プラズマ、香り、光といった不安定な物質を演出するインスタレーションで、五感を刺激する環境を提供している。
彼らの作品は、絶えず現れ、形を変え、消えていくものを通じて、鑑賞者に静かに考える時間を提供し、非永続性、自然と人工の微妙な境界線を提示する環境を生み出している。2026年6月にスイスで開催されたアート・バーゼルで発表した最新のインスタレーション、設計されたシステムがもやを内包したバブルを生成する『Symbiosis(シンビオシス)』は、BMWとのパートナーシップにより制作した。同社の新たな運転支援システム、アクセルやブレーキ、ステアリングの操作に関するドライバーの意思をAIがくみ取り、操作を支援する「Symbiotic Drive(シンビオティック・ドライブ)」にインスピレーションを得ている。
「私たちが関心を持っているのは、存在そのものが物質になり得るという考え方です」という村上は、さらに次のように語る。
「私たちは自らが取り入れているものを、『儚いテクノロジー』と呼んでいます。それは、仮想シミュレーションを制作するためではなく、物理的な現実そのものに直接働きかけるために、先端技術を使用するものです」
「空中に放出されるバブルは、放出されたその時点ですでに機械のものではなくなっており、重力と空気の流れ、温度、エントロピー、そして偶然に委ねられるものになります。私たちは、その委ねることこそがシンビオシス(共生)の意味だと考えました」
これはまさに、グローバル・パートナーとして20年以上、アート・バーゼルに協力してきたBMWにふさわしいコラボレーションといえるだろう。同社は半世紀以上にわたり、数百の取り組みを通じて文化活動を支援してきた。それらのイニシアチブは、現代アートからデザイン、建築、音楽、フィルム、そして伝説的な「BMWアート・カー」、世界各地で発表してきたさまざまなアーティストによる大型作品まで、幅広い分野にわたっている。
「実体のある」A.A.Murakamiの新作
2026年のヴェネチア・ビエンナーレの国別パビリオン、ウズベキスタン館「The Aural Sea」に彼らが出品した新作のタペストリー、「The Sun Sets in a Shell」は、水環境の変化によりアラル海に生息できなくなったゼブラガイの模様をモチーフにしたものだ。その模様を再現できるように生成したコードを用いて制作した大型タペストリーで、環境の激変による喪失を表現すると同時に、記憶と生命、パターンについての熟考を促している。
こうしたA.A.Murakamiのプロジェクトが明示するのは、彼らが高度なエンジニアリングと繊細で儚い自然界の美のどちらにも魅了されていることだ。



