企業やブランドが提供する製品やサービスのうち、他では手に入らないほどユニークなものは、ごくわずかしか存在しない。つまり、販売されているもののほとんどはコモディティ(汎用品)なのだ。たとえば、85インチのLG製テレビが欲しいと思えば、地域の何十もの店舗に行くか、オンラインで購入できる。デルのパソコンが欲しい場合も、デルから直接買うこともできれば、他の多くの家電量販店やECサイトで同じものを購入することも可能だ。
では、誰もが同じものを売っているとき、企業はどうやって差別化を図ればよいのだろうか。
一般的に、顧客の判断基準は2つに集約される。価格とサービスだ。
コモディティ化した業界の代表格といえば、自動車業界だ。通常、顧客がディーラーに足を運んで車を眺め、窓に貼られた「メーカー希望小売価格(ステッカー価格)」をそのまま支払うことはない。ほぼ間違いなく価格交渉が行われる。この業界は、顧客にそうした期待を抱くよう学習させてきたのだ。
最近、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に掲載された素晴らしい記事を読んだ。米国と英国に250以上の拠点を持ち、2万人以上の従業員を抱える自動車小売大手、グループ1・オートモーティブ(Group 1 Automotive)のCEO、ダリル・ケニンガムへのインタビュー記事だ。
自動車がコモディティであるという私の指摘を裏付けるように、ケニンガムはこう語っている。「自動車小売業界では、誰もが同じ製品を扱い、実質的に同じ価格帯で販売している」。では、競合他社と本質的に同じ製品を、ほぼ同じ価格で販売しているグループ1は、一体何をしているのか。
彼らは、顧客体験(CX)で勝負しているのだ。
体験こそが差別化要因
これは決して目新しい話ではないかもしれないが、ケニンガムの「体験」に対する考え方に注目することは非常に有意義だ。彼は、すべてのビジネスリーダーが考慮すべき重要な事実を認識している。それは、競合他社と同じ製品を売っているとしても、同じ体験を提供する必要はない、ということだ。
製品と価格がほぼ同じであれば、顧客体験こそが「製品」になる。
グループ1は、不便さ(フリクション)の解消、信頼関係の構築、そして適切なサービス体験の提供に注力している。車を買うことは体験の一部にすぎない。購入後に顧客がどのように扱われるか、とりわけ点検や整備のために車両を持ち込んだ際の対応こそが、顧客を再び呼び戻す鍵となる。
価格の重要性を下げる
今年のカスタマーサービスとCXに関する年次調査では、消費者の59%がカスタマーサービスを価格よりも重視していると回答した。もちろん、価格がどうでもいいわけではない。価格は常に、顧客の購買判断の一部であり続ける。しかし、適切な顧客体験を提供できれば、価格の重要性を下げることができる。競争力のある価格である必要はあるが、必ずしも最安値である必要はないのだ。
「無関係であること」と「重要性が下がること」の間には、大きな違いがある。
顧客は、より多くの価値を得られると実感できれば、より高い対価を支払うものだ。その「価値」とは、利便性、安心感、専門知識、信頼、あるいはシンプルで快適な体験からもたらされる。
自分がひいきにしている企業について考えてみてほしい。おそらく、最安値を提供しているわけではないのに、継続して利用している企業があるはずだ。それでも取引を続けるのは、何を期待できるかがわかっているからである。
そこにチャンスがある。誰もが売っているものを自社も売るのなら、顧客に自社を選んでもらうための「別の理由」を提供しなければならない。
顧客が戻ってくる接点を見極める
ケニンガムによると、顧客が点検や整備のために来店する頻度は、車を購入するために来店する頻度の約12倍にのぼるという。この事実が、グループ1の本来の事業ドメインを再考させるきっかけとなった。彼らの本業は「車の販売」ではなかったのだ。ケニンガムは「私たちの事業はアフターセールス(購入後のサービス)だ」と語る。
そこで、考えるべき問いはこうだ。「自社は本当は何のビジネスをしているのか」
自動車ディーラーは車を販売するが、継続的な関係性はサービス部門で築かれる。テクノロジー企業はソフトウェアを販売するが、関係性はカスタマーサポートを通じて構築される。小売店は衣類(あるいはその他のあらゆるもの)を販売するが、顧客がサポートを必要としたり、返品を行ったり、トラブルに見舞われたりするたびに、関係性は強化される。
自社のビジネスを見つめ、販売後に顧客が最も頻繁に接点を持つ場所はどこかを問い直してほしい。その接点は、顧客の最初の購入よりも、会社の将来にとって重要かもしれない。
自動車販売をはじめとする多くの業界では、「契約を成立させた(案件をクローズした)」という言葉をよく耳にする。しかし、優れたリーダーや営業担当者は、販売が終わりではないことを知っている。それは始まりにすぎない。購入後に起きることのすべてが、競合他社ではなく自社から購入するという顧客の判断が正しかったことを証明するのだ。
おわりに
競合他社と同じ製品やサービスを、実質的に同じ価格で販売しているかもしれない。しかし、だからといって顧客が自社と他社を同じように見ているとは限らない。
違いを生み出すのは、体験だ。
ケニンガムとグループ1・オートモーティブは、車の販売が始まりにすぎないことを理解している。その後に続くサービス体験こそが、顧客が再び戻ってくる理由なのだ。
だから、競合があなたと同じものを売っているなら、製品だけに目を向けてはいけない。どう売るのか、どうサービスを提供するのか、そして体験全体について顧客にどう感じてもらうのかに注力すべきだ。それこそが、会社を「脱コモディティ化」し、競争優位をもたらすのである。



