この戦略は単なる無差別な破壊から、特定の構成要素を狙い撃つ作戦へと進化してきた。ウクライナの無人機部隊は現在、単に貯蔵タンクを標的にするのではなく、特定の製油所内でどの設備が最も重要で代替が困難かについて、専門家や技術者から説明を受けている。ブロウジ司令官によれば、特定の飛行経路上の防空網を無力化すれば、生産や出荷、輸出拠点に最大限の打撃を与えるための標的選定は「純粋な数学の問題」になるという。
ウクライナ軍の攻撃のペースは外交と連動しているわけではなく、むしろ交渉が停滞する中で激化している。同国のデニス・シミハリ・エネルギー相は、この作戦を単なる政治的メッセージの発信ではなく「消耗戦」と位置付け、「互いに相手が先に倒れることを望むボクシングの試合」になぞらえた。ゼレンスキー大統領が6月25日に開始した、ロシア内陸部のエネルギー施設とクリミア半島への補給線を標的とした40日間にわたる無人機による集中攻撃は、認知戦と実戦を組み合わせた実例であり、プーチン大統領を和平交渉へと追い込むことを意図していた。
この対立の根本的な問題は解決不可能と言えるだろう。ロシアはウクライナに対し、同国東部ドンバス地方の非占領地域をも要求しているが、同国はロシアが占領に失敗した領土の割譲を拒否している。ロシアの将来の意図が不透明である以上、宥和(ゆうわ)政策を取ることはウクライナにとって危険な道となりかねない。領土を割譲すれば、かえってロシアの野心を増大させ、さらなる攻撃を招く恐れがあるからだ。
事態の激化は双方に悪影響を及ぼしており、外交的な解決の糸口は見えない。ウクライナ軍がロシアの製油所を標的にする一方で、ロシア軍は1月以降、ウクライナ国営天然ガス企業ナフトガスの施設を250回以上、さらに前線付近のガソリンスタンド約250カ所を攻撃しており、7月には弾道ミサイルの発射回数が前月から倍増した。ウクライナ軍の無人機作戦についてはさまざまな見方があるものの、ロシアのエネルギー施設に対する攻撃は多大な損害を与えながらも、プーチン大統領の姿勢を変えられず、同国の軍事的優位性を揺るがすことも、国内情勢を不安定化させることもできていない。そのため、戦争の代償は人的・物的損失の点では大きいとはいえ、ウクライナの大部分を支配下に置けないまま妥協的な和平を結ぶことでクレムリンが支払うことになる政治的代償に比べればはるかに小さいため、プーチン大統領が交渉に踏み切る動機は本質的に変わっていない。
ウクライナとは全く異なる様相を呈するイラン情勢
一方、イランを巡る情勢は全く異なる様相を呈している。米イスラエル両軍がイランへの攻撃を開始してから1カ月も経たないうちに、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、9カ国にわたる40カ所以上のエネルギー施設が「深刻な被害」を受けたと報告した。イスラエル軍は3月、イラン国内のガス供給の大部分を担う同国のガス田「サウスパース」を攻撃した。この攻撃は即座にペルシャ湾岸全域に対するイランの報復を引き起こした。イラン軍が世界最大の液化天然ガス(LNG)生産・輸出拠点のあるカタール北部の工業都市ラスラファンを攻撃したことで、同国のLNG生産施設の推定17%が今後最大5年間にわたり停止することになった。


