世界第2位の自動車市場である米国には、国内自動車メーカーは、テスラを除けば、2社しかない。世界一の中国には、何十社とある。強者だけを残す時が来たのだ。実際中国の自動車販売は、落ち込んでいる。過去10年間、年率14.6%で成長してきた中国の小型乗用車販売は、何カ月かにわたって、前年比で縮小しており、2015年通年の予想は、2014年からおよそ2%増の2,410万台とされている。米国の新車販売は、2015年には1,730万台に達する見通しである。
自動車産業が縮小するに従い、地方の自動車メーカーは、買収されるか閉鎖されるだろう。ただし、政府が如何に失業を嫌っているか、また、地方政府が州内で依然として力を持っていることを考えれば、自動車市場の過剰供給はここしばらく続くと思われる。
金融の専門家たちは、このところ中国を避けているが、中国経済は大きすぎて既に無視することはできない。ゼネラルモーターズやフォードといった会社にとっては、中国は、西ヨーロッパ、日本、インド、ブラジルより重要である。全ての小型乗用車の年間新車販売のうち25%超を占めており、今年はこれまでに、約4,700億ドルの売り上げを記録している。
中国には、40社以上の自動車メーカーと90を超える自動車のブランドがある。これは、米国の3倍以上である。中国の自動車メーカーは、個別の国内ブランドか、外国自動車メーカーと合弁会社を形成した大規模な国営企業(SOE)である。これらのSOE合弁会社においては、現在の政策では、外国の所有比率は50%までに制限されている。 それでも、J.D.パワーによれば、これらのSOEは、中国における乗用車メーカーの上位15社のうち11社を占めている。外国ブランドの自動車は、乗用車販売の65%を占めている。
自動車メーカーは、在庫を減らすために、価格を引き下げることを余儀なくされている。ただし、その効果は殆ど見られない。中国の中間層や富裕層は、外国ブランド志向が強い。品質が優れていると見られているからである。このため、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズが中国で生き残って、販売を続ける事は可能だろう。しかしながら、小さな中国の会社は、他の国内のライバルと競争するために価格を抑えなければならない。自動車メーカーが全て地元資本で、本当の競争が殆どない場合には、低価格が利益を損ない、最終的には、これらの会社を不採算にして、これらの会社が返済できない債権を抱えた貸し手に損害を与えることになる。
J.D.パワーの2015年中国販売店傾向調査によれば、中国の自動車販売店の47%が2014年には新車販売で損失を出したと言っており、2013年の28%から増えている。自動車メーカーが、誰も買わない自動車を作り続けているため、この傾向は2015年も続いている。
カリフォルニア州ウエストレイク・ビレッジにあるJ.D.パワーの自動車グループ上級副社長であるジョン・ハンフリーによれば、現在の中国の自動車生産能力は3,500万台を超えているが、今年の現地生産された自動車の販売は、約2,300万台と予測されている。彼は、木曜日に公表したレポートにおいて、「基本的なコスト構造に非常に恵まれているので、多くの中国の国内自動車メーカーは、市場経済であれば、倒産するか競争相手位に買収されてしまうであろうレベルの非効率・低収益でも操業できてしまっている」と書いている。「市場に基づくダイナミクスが働いて初めて、同産業は長引く価格切り下げや、自動車メーカーの利益に及ぼす影響から抜け出すことができる。このまま何もしなければ、自動車産業は、外国企業か国内企業かを問わず、ゾンビ企業だらけとなり、持続的に利益を上げたり、高付加価値の自動車を作る望みもなくなってしまうだろう。」
景気減速への対応として、中国は最近売上税を引き下げた。この措置は、投資家を含め、幾つかの産業で歓迎された。吉利汽車の株は、過去3ヶ月で28%上昇した。長城汽車は、同期間に23.3%上昇しており、両者とも香港ハンセン株価指数を上回っている。
しかしながら、減税は短期的手段であり、中国の過剰供給の問題を解決するものではない。「中国政府にとっては、自動車産業が将来強くなるように、政策転換をする機会である」と、ハンフリーは語る。問題は、雇用、売上、自尊心がかかっている中、中国が自由市場の力が働くのに任せておけるのか、それとも無策と遅延によって絶好の機会を見逃すのかということだ。