株安局面では和平示唆、株高局面では強硬姿勢が目立つ
イランをめぐるトランプ発言が実際の行動とずれたのは、今回が初めてではない。4月には、停戦延長は考えにくいと述べ、ホルムズ海峡は封鎖されたままになるとした。その翌日、パキスタンから要請を受けて停戦を無期限に延長した。7月上旬には正反対に振る舞い、攻撃再開に合わせて停戦は終わったと宣言した。そして8月である。株価が崩れかけると、トランプは予定していた攻撃を取りやめ、協議が進行中だとほのめかした。S&P500種は1.5%跳ね上がった。
このパターンを無視するのは難しい。
トランプの融和的な発言は株価が圧迫された局面で出ており、強硬な発言は相場が堅調な局面に集中している。意図的か、たまたま時期が重なっただけかは知りようがない。ただトランプ本人が、自身の言葉で株価をどれだけ動かせるかを理解していることは疑いない。
指数に負けた運用担当者は、疑う前にまず買っている
そして投資家には、その値動きを追いかける理由が十分にある。2025年には、大型株を扱うアクティブ運用ファンドの79%がS&P500種を下回った。最高値を更新し続ける相場に付いていけという圧力が、プロの運用担当者にのしかかっている。
イラン関連の報道が、これほど素早い上昇を引き起こす理由はここにある。上げ相場を追う運用担当者は、まず買い、確認は後回しにしかねない。市場は、和平の可能性を伝える報道には素早く反応する。だが、協議そのものが存在しないという否定には、そこまで機敏に動かない。
だからこそイラン関連の報道は、とりわけ強い力を持つ。細部が不確かなままでも、市場は合意の可能性を即座に織り込む。トランプはそれを知っている。米国時間8月12日、イラン高官がロイターに伝えた内容は明快だった。停戦延長をめぐる協議は、進行していない。
これは重い。仲介役のパキスタンが語る延長は署名されないままで、イラン側から見れば、そもそも存在すらしていない。
停戦期限を8月17日に控え、どちらに賭けても根拠は薄い
8月15日からの週末に向けた構図は単純だ。S&P500種が最高値にある以上、トランプが市場へ新たな和平の報道を与える理由は乏しい。相場はすでに強い。強硬な姿勢を取るほうが、交渉上の主導権は大きくなる。ただし、現在の姿勢がそのまま停戦終了を意味すると決めつけられない理由もある。4月に延長は考えにくいと述べ、その翌日に延長したのは本人である。
つまり投資家は、どちらの結末に賭けるにしても慎重であるべきだ。春以降、戦争は何度も終結間近だと語られてきたが、実際の帰結は不確かなままである。現地の状況が変わったという証拠が出る前に、市場はトランプの言葉へ反応し続けている。
原油安と金利低下は、企業の利益を押し上げていない
経済への影響そのものは実在する。原油安、債券利回りの低下、インフレ鈍化は、いずれも株式を支えてきた。だが、こうした報道は、企業が実際に稼ぐ額を変えていない。戦争が終わるかもしれないというトランプ発言を頼りに最高値圏で株式を買い進むのは、突き詰めれば企業収益ではなく、次に何を言うかへの賭けにすぎない。
そして、それが8月15日からの週末を前にした最大のリスクである。トランプの言葉は相場を素早く動かせるが、戦争が実際に終わることを保証するわけではない。


