私たちがAI(人工知能)について抱いている前提のうち、未来をどうナビゲートしていくかという本質的な議論の妨げになっているものは何だろうか。世界的な影響力において電気や火にもたとえられるこのテクノロジーを社会に統合していくにあたり、より良い形での協調モデルを構築するために何が助けになるのだろうか。
エージェントの時代が近づくにつれ、AIが何をなしうるかが次第に見えてきている。かつては「ワトソン(Watson)」の時代があった。知識ベースという干し草の山からあらゆる事実を取り出せることや、計算や決定論的な思考で人間を打ち負かせることを示したチャットボットの時代である。
いまやエージェントは、そのシンプルな前提を超え、AIが実際に私たちのために何かを行うという未踏の領域へと私たちを連れ出そうとしている。そこで問われるのは、AIは何をするのか、そして私たちは人間ではないパートナー、アシスタント、協働者たちとどのように連携していくのか、ということだ。
こうした前提そのものに価値がある。私たちがどこへ行きたいのか、どこへは行きたくないのか、そして最終的にどこへ向かっているのかを描くロードマップの助けになるからだ。
ボストンでのカンファレンス
今年4月に開催された「Imagination in Action(イマジネーション・イン・アクション:IIA)」のイベントで、私はあるパネルディスカッションを傍聴した。そこでは、冷静な評価の妨げになりかねないいくつかの前提や、AI開発の収束的な答えを見出すには少し的外れかもしれないアイデアについて議論が交わされた。(免責事項:4月のIIAイベントは、筆者が運営を支援している年次カンファレンスである)
パネリストの1人であるマサチューセッツ工科大学(MIT)博士課程のアーユシュ・チョプラ(Ayush Chopra)は、まず「AIエージェント単体が、それ自体の中に答えを持つ『知的な』存在である」という、まさに核心的な考え方に異を唱えることから始めた。
「現在の多くのエージェントは、すべての知能がエージェントの内部に存在し、エージェントは自らすべてを解決できるほど十分に知的であるという根本的な前提に基づいて構築されている。しかし、全員が知的であるなら、基本的には誰も知的ではないということになる。したがって、未来における根本的な前提は、知能は『相互作用(インタラクション)』の中にある、ということだと私は考えている。つまり今後見られるようになるのは、すべての知能がエージェント内にあるとただ仮定するのではなく、正しい相互作用のプロトコルを設計することを学ぶ必要があるということだ」
AIの無謬性という発想を切り崩すように、パネリストを務めたTresada(トレサダ)の最高経営責任者(CEO)であるアビシェク・メータ(Abhishek Mehta)は、このテクノロジーに固有のいくつかのレイヤーについて説明し、その多くがエラーを起こしやすいものであると指摘した。
「今日の私たちの世界において、データはアプリケーションベースであれ、ストレージベースであれ、あるいはコンピューティングベースであれ、非常に中央集権的なテーマとなっている」とメータは語る。「私たちは皆、データとその管理は中央集権化されるべきだと仮定している。しかし、エージェントの世界ではそれでは機能しない。なぜなら、マザーシップ(母船)を待つことはできないからだ。マザーシップが存在すること自体、心地よいものではないと思うが、人間と同じように、意思決定が必要なときに必要な決定を下せるインテリジェントなシステムを構築するために、マザーシップが適切なシグナルを提供してくれるのを待つわけにはいかない。そのため、私の意見では、最下層にチップがあり、最上層にエージェントがあるというテックスタックの考え方において、その中間にあるすべてが今後の争点になる」
メータは、HTTPやHTML、URLを用いた初期のインターネットの設計におけるティム・バーナーズ=リーの功績を引き合いに出し、AIエージェントに対する異なるアプローチの必要性を訴えた。
「エージェント・エコシステムの基本的な構成要素は、コミュニティの中で取り組まれなければならない」と彼は述べ、「過度な欲」がオープンソース運動の浸透を難しくするとの見方を示した。「いま起きているのは、そういうことではない」
互いに会話するということ
パネリストであるカーネギーメロン大学名誉教授のマヌエラ・ヴェローソ(Manuela Veloso)は、エージェント同士がシームレスに簡単に通信し合い、まるで思春期の子どもたちが野球カードやポケモンカード、あるいはその時に流行っているものを交換するかのように情報をやり取りできるという前提に切り込んだ。彼女は次のような例を挙げた。
「例えば私が『CEOの住所は?』と尋ねると、エージェントは通りの名前だけで答え、郵便番号や州名などを一切提供しないかもしれない。私が意図したのは『完全な住所』だったとしてもだ。あるエージェントが別のエージェントに何かを尋ねるとき、崩れてしまうのは『自分が求めたことが、必要な詳細レベルで理解されている』という前提だと思う。したがって、複数のコンピュータ・エンティティが互いに会話する中で、私たち全員が同じ空間や詳細レベルを共有していると想定することは、大きな課題となる」
また、MIT准教授のフィリップ・イゾラ(Phillip Isola)は、未来のAIエージェントはより生物学的なデザインからインスピレーションを得た、決定論的ではない、より「オルガノイド(有機体的)」なものになるのではないかと思索を巡らせた。
「一つの可能性として、この未来は、現在のツールの構築手法の多くを占めるネットワークやコンピュータシステム、コンピュータサイエンスよりも、経済や市場、社会政策に近いものになるかもしれない」とイゾラは語った。「現在のLLM(大規模言語モデル)はコンピュータサイエンスそのもののように見える。特定のプロトコルに従い、MCP(Model Context Protocol)などを利用する。しかし、これらのエージェントの未来にとっては、プログラムではなく生物(オーガニズム)のように捉えることこそが、より良いモデルになるかもしれない」
視野に入る再帰的AI
「ごく近いうちに」とメータは示唆した。「エージェントがエージェントを構築するようになる。それらは忠実度が低くなり、エージェントを構築するエージェントがさらに多くのエージェントを構築するようになれば、エージェントは非常に急速に進化し、世界経済の70%を自動化するためにエージェントが何を行うのかについて、はるかに多くの戦術的開発を促すことになるだろう」
チョプラもこれに同意し、社会化の原理である「ダンバーの天井」と呼ばれるものへのAIのアプローチに言及しながら、再帰的なプロセスを次のように説明した。
「私たちの研究室では、この5年間、大規模なマルチエージェントシステムの研究だけに取り組んできた。長年にわたり、人間社会が大きな動機付けとなっており、疾病の流行、労働市場、ソーシャルネットワーク、サプライチェーンをモデル化するためにエージェントを使ってきた。それが、社会の大規模モデルや、エージェントが大規模にどのように自己組織化するかを研究するうえでの中心的な取り組みだった」
「こうしたシステムやエージェントの繰り返しをどう構築するのか」と、パネリストであるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(Tata Consultancy Services)のアニル・シャルマ(Anil Sharma)はスケーリングに触れて問いかけた。「誰がそれらを支えるのか。取り組むべき問いはまだ数多くある。良い点は、今日まで物事がどのように機能してきたかについて私たちが多くの知見を持っており、その中のいくつかのアイデアはスケーラブルであり、内部エージェントに対してもスケール可能である可能性があることだ」
「それらには限界があるだろう」とヴェローソは付け加え、エージェントの真に印象的な部分は人間との相互作用にあるだろうと示唆した。
以上が、今後数年のうちにAIエージェントにおいて私たちが目にすることになるかもしれない変化と、それが多くの人々が抱く前提をいかに覆す可能性があるかについてのいくつかの考察だ。オープンソース運動がどうなるかについては、今後の展開を見守ることになる。



